遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「今タクシー呼びましたので、病院に連れていきますね。八木さん、高瀬さんに伝えといてくれますか?」
「え!?有馬さんにそこまでさせるわけには…俺が先輩連れて行くので…!」
「いえ、通り道なので。明石さんを病院に送り届けて、問題なさそうなら会社に戻ります」
淡々とした返事なのに、そこに迷いはなかった。
「ありがとうございます…先輩の荷物とってきます」
八木くんがそう言って足早にフロアへ戻っていく。
そのやり取りが遠くに聞こえる中で、私はソファに座ったまま、視界がゆっくり揺れていくのを感じていた。まだふらふらする。ちゃんと座っているのに、地面が少し遠い。
「……。」
そのとき、肩にそっと重みが乗る。支えられるように、誰かに体を預ける形になる。
「……すみません」
小さくそう漏らした声は、自分でも驚くくらい弱かった。うっすらと目を開けると、有馬さんの肩だった。近すぎる距離なのに、不思議と怖くない。むしろその安定した体温に引っ張られるみたいに、意識が少しずつ落ち着いていく。
「大丈夫ですか」
低い声がすぐ近くで聞こえる。私はうまく頷けないまま、それでもほんの少しだけ力を抜いた。なぜか分からないけれど、この人のそばだと、ちゃんと呼吸ができる気がした。