遅かれ、早かれ、恋になりまして。
しばらくして、タクシーがロビー前に到着する。ドアが開いた瞬間の外気が少しだけ冷たくて、ぼんやりしていた意識がわずかに揺れた。
「行けますか」
また同じ確認。私はうまく声を出せず、小さく頷くことしかできなかった。
「病院、近いところでいいですよね」
「……はい」
そのまま、気づけば後部座席に乗せられていた。ドアが閉まる音がして、外の世界が少し遠くなる。気づいたときには、私はまた有馬さんの肩にもたれる形になっていた。抵抗する力もなくて、そのまま預けてしまう。
窓の外ではビルの景色がゆっくりと流れていく。街の音がガラス越しにぼんやりと遠くなる。
「……すみません」
もう一度、反射みたいに謝ってしまうと、有馬さんはほんの少しだけこちらに視線を落とした。
「謝る必要はないです」
それだけ。静かで、短い言葉。
タクシーの中は驚くほど静かで、エンジンの低い振動だけが一定に響いている。私は窓の外を見ながら、ぼんやりと考える。
なんでこの人は、こんなに当たり前みたいに人を助けるんだろう。仕事だから、と言われればそれまでなのに、それだけじゃない気がしてしまうのが、いちばん困る。
隣にいるだけで、少しずつ呼吸が整っていくのが分かってしまうから。
私はそのまま、流れていく景色を目で追いながら、何も言えないまま病院へ向かっていった。