遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「ごめんね、八木くん」
「いや、俺は全然いいんですけど…なんて言われました?」
「疲労だろうって……」
情けなくて、自然と視線が下がる。
「ストレス溜まってるんですか?」
「いや、そんなことないんだけど……」
「俺でよかったら、いつでも話聞くんで。まあ、後輩だし役に立たないかもしれないけど」
八木くんが少し俯きながらそう言った瞬間、私は思わず息をついた。
かわいい。完全に子犬だ。
ありがとう、と軽くほほ笑むと、八木くんは「いや、別に……」とぶっきらぼうに返しながら、プイっと顔を背けた。
でもその耳が少しだけ赤い。分かりやすすぎる。
「有馬さんは…?」
「ついさっきまでいました。あとでタクシーの領収書もらわないと」
「……そう、」
「課長が、今日はそのまま帰れって言ってましたよ」
………いたんだ。さっきまで、ここに。有馬さんが。
たったそれだけの事実なのに、胸の奥がじわっと熱くなって、それをそのまま飲み込むみたいに息を止めた。顔には出さないようにしているのに、喉の奥だけが勝手に締まっていく。
細身なのに意外としっかりした肩も、冷たい指先の感触も、斜め上から落ちてくる静かな声も、全部ちゃんと覚えている。
気づいたら、私はさっきまで支えられていた場所を無意識に探していた。