遅かれ、早かれ、恋になりまして。

『無理です』

『今日は帰った方がいいです』


短い言葉ばかりなのに、どうしてこんなに残るんだろう。

ペットボトルを渡してくれた時の手とか、歩幅を合わせるみたいにゆっくり歩いてくれたこととか、私が謝るたびに少し困ったみたいな顔をしたこととか。

そんな小さな仕草が、何度も何度も頭の中に浮かんでは消えていく。


「……はぁ」


小さくため息が漏れた。

だめだ。ただでさえ、かっこ悪いところを見せちゃったのに。仕事中に倒れかけて、支えられて、病院まで付き添ってもらって。絶対、迷惑だったはずなのに。
それなのに私は、有馬さんのことばかり考えている。

きっと向こうは、ただ放っておけなかっただけだ。仕事相手だから。近くにいたから。
それ以上の意味なんてない。

分かっているのに、隣にいるだけで安心したこととか、あの肩に寄りかかった瞬間ちゃんと呼吸ができたこととか、そんなことばかり思い出してしまう。

胸の奥が落ち着かなくて、でも嫌じゃなくて、自分でもどうしたらいいのか分からない。

私は逃げるみたいに毛布を引き寄せて、顔半分を埋めた。

閉じた瞼の裏にまで、有馬さんの静かな横顔が浮かんできて、余計に眠れなくなる。

こんなの、ただの体調不良のせいだ。体調が悪くて、頭がおかしくなってるだけ。

そう自分に言い聞かせても、胸の奥に残った熱だけは、なかなか消えてくれなかった。
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