遅かれ、早かれ、恋になりまして。
ガチャガチャ、と玄関のほうから小さな物音が聞こえた気がして、私はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりした視界のまま天井を見つめる。どれくらい寝ていたんだろう。カーテンの隙間から差し込む光は、さっきより少しだけオレンジ色に変わっていて、部屋の空気も静かに夕方へ近づいていた。
まだ少し重たい頭を抱えたまま寝返りを打とうとした、その瞬間。
ピンポーン。間延びしたチャイムの音が部屋に響く。
私は小さく眉を寄せながら、のそのそとベッドから体を起こした。まだ完全には体力が戻っていないのか、足元が少しふらつく。
スマホを探そうとして、そういえば胸の上に置いたままだったことを思い出す。画面を見ると、佳奈子から不在着信が入っていた。
え、まさか。
嫌な予感がして急いでインターホンのモニターを覗く。そこに映っていたのは、満面の笑みを浮かべる佳奈子だった。
私は慌てて玄関へ向かい、髪を適当に整えながら鍵を開けた。ドアを開けた瞬間、佳奈子がいつもの明るい声を響かせる。
「やっほー!起こしてごめん。看病しにきたよ」
「えーっ!わざわざありがとう」
思わず笑ってしまう。ついさっきまでぼんやり沈んでいた部屋の空気が、一気に明るくなった気がした。佳奈子の手にはコンビニの袋がいくつもぶら下がっている。スポーツドリンクにゼリー、アイス、それからプリンまで見えて、完全に本気の看病セットだ。
「少し寝てたから、もうだいぶ楽なんだけど……なんか申し訳ない」
「いいのいいの。こういう時くらい頼りなよ」
佳奈子はそう言って笑う。その笑顔に少しだけ胸が軽くなる。
「風邪じゃないんだよね?マスクしたほうがいい?」
「あ、うん。風邪じゃないから大丈夫だと思う。貧血と疲労だって」
「うわ、社会人って感じ……」
佳奈子はわざとらしく顔をしかめながら、「お邪魔しまーす」と言って靴を脱いだ。そのまま当然みたいにスタスタ部屋へ入っていく。