遅かれ、早かれ、恋になりまして。

「もー、倒れたって聞いたときはほんとびっくりしたんだからね」


家主の私より前を歩きながら、迷いなくリビングへ向かう後ろ姿に、思わず苦笑いが漏れる。何度も遊びに来てるから、もはや自分の家みたいな歩き方だ。


「誰に聞いたの?」


私がそう聞くと、佳奈子はテーブルにコンビニ袋を置きながら振り返った。


「たまたまそっちのフロアに用あって寄ったら、課長に聞いてさー。いやもう、かなり焦ってたよ?」


佳奈子はそんなことを言いながら、コンビニ袋の中からゼリーやカットフルーツ、それからスポーツドリンクを次々とテーブルに並べていく。


「……うぅ、申し訳ないことした」

「ヤヨ、最近頑張りすぎじゃない?」


佳奈子にそう言われて、正直図星だった。自分のキャパシティを考えずに仕事をしていた感じはある。気づかないふりをして、ずっと走っていたような。


「どうしたの?話なら、なんでも聞くよ。ヤヨの一番の味方だからね」


佳奈子は手を止めて、代わりに私の両手をそっと包んだ。ただそれだけなのに、さっきまで抑えていたものが少しずつ緩んでいくのが分かる。


『今日は帰った方がいいです』『謝る必要はないです』

低くて静かな声。肩に触れた手の感触。支えられた時の体温。思い出した瞬間、胸の奥がぎゅっと苦しくなる。

ああ、だめだ。認めたくないのに。


「綺麗なの、全部」


ぽつりと落ちた言葉に、佳奈子がきょとんとする。


「……ん?」

「なんでか、それをずっと見ていたくて……」


思い浮かぶ。

静かな横顔。伏せられた睫毛。書類を持つ長い指。感情をあまり見せないのに、時々ほんの少しだけ柔らかくなる目元。低く落ち着いた声。

全部、綺麗だと思った。最初はただそれだけだったはずなのに。
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