遅かれ、早かれ、恋になりまして。

「目が合うと逸らしたくなるし……あの人の視界に、私は入りたくないのに」


見られるのは怖い。近づくのも怖い。変に意識されるのも嫌。なのに。


「私は、あの人のことを見逃したくないんだよね……」


自分でもよく分からない感情だった。遠くから見ていたい。ちゃんと目で追っていたい。ほんの小さな変化も見逃したくない。そんなふうに思う相手なんて、今までいなかった。

そこまで言って、私はふと佳奈子の顔を見る。すると佳奈子は、なぜか微妙に困った顔をしていた。眉を寄せて、「えっと……」と口を開く。


「ごめん、誰のこと?」

「あ……」


そこでようやく気づいた。

私、有馬さんの話をちゃんとしてない!いや、電車で「めちゃくちゃ顔が綺麗な人見つけた」って話した記憶はある!でも、その人が次の日、新規取引先のNEXERA株式会社の担当として現れたことも、その人が有馬さんだってことも、その後同じ空間で仕事するようになったことも、何ひとつ佳奈子には話してない!


慌てて私は、佳奈子に前回のランチから今日までのことを全部話した。

私が駅で転びそうになって、AirPodsが入れ替わってしまったこと。その日、新規取引先として現れた相手が、その電車の人だったこと。名刺交換をして、名前が有馬千春だと分かったこと。そして今日、私が倒れかけた時に真っ先に気づいて、病院まで付き添ってくれたのが有馬さんだったこと。

話しながら、自分でも何この展開と思う。少女漫画かドラマの導入みたいなことが、ここ一週間で一気に起きている。全部話し終わって恐る恐る佳奈子の顔を見ると、案の定ぽかーんとしていた。
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