遅かれ、早かれ、恋になりまして。
しばらくして、エレベーターが営業フロアに到着し、静かにドアが開くと、オフィスの空気が一気に流れ込んできた。そのまま降りたところで、課長がふと思い出したように「あ、そういえば」と声を上げる。
「俺から有馬さんにお礼の電話入れといたけど、今日打ち合わせ終わった後にでもお礼言っといてもらえると助かる」
課長から有馬さんの名前が出た、そのただそれだけなのに、さっきまで普通に動いていたはずの体温が一気に上がっていくのが分かってしまって、私は思わず視線を前に固定したまま固まった。
「はい、わかりました。今日、頑張ります」
頭をフル回転させ、なんとか課長にそれだけ言って、私は自分のデスクへ向かった。
「おはようございます」
「八木くん、おはよう。昨日、ほんとにありがとね」
「だいぶよくなりました?」
「うん、もうバッチリ!」
笑ってみせると、八木くんは「もう、先輩、ビビらすのやめてくださいね」と少し呆れたように言いながらも、どこか安心したような目をしていた。その感じが分かってしまって、自然と頬が緩む。
ちゃんと心配してくれてたんだな。
「そういえば、有馬さんと仲いいんすか?」
「え!?」
声が裏返りそうになりながら思わず固まる。
「な、なんで?」
聞き返しながら、気付いた時には椅子を少し滑らせて八木くんの方に近づいてしまって、「近!」と嫌そうに距離を取られた。