遅かれ、早かれ、恋になりまして。
軽く腕まくりをして、もう一度段ボールに手をかける。カウンターから持ち上げた瞬間、ずっしりとした重さが腕全体にのしかかってきて、思わず息が止まりかけた。
でも、大丈夫。大丈夫。
なんとか踏ん張りながらフロアの出口へ向かう。
資料室まではすぐだし、これくらいならいける。
プルプルと小さく震える腕をごまかしながら、一歩ずつ足を動かしていると、前方から誰かが駆け寄ってくるのが見えた。
「先輩!無茶しないでくださいって…!」
八木くんだった。焦った声で、いつもより一段高いトーン。その彼がこんなふうに声を張るのを初めて聞いた気がして、一瞬だけ驚いてしまう。
止める間もなく、八木くんは私の腕から段ボールをひょいと持ち上げた。
一瞬だった。
さっきまであれほど重かったのに、腕から力が抜けるみたいに一気に軽くなる。
おお、八木くんてば…やっぱり男の子だ。
「もう、まじでやめてください。こんなの、男に頼めばいいでしょ」
段ボールを軽々と抱えたまま八木くんが少し呆れたように言う。その声には怒りというより、心配と諦めが混ざっていて、正論なのに素直に受け取れない自分がいる。
「…だって、誰もいなかったんだもん」
ムッとして言い返すと、八木くんは一度だけ深くため息をついた。年下なのに説得力があるのがなんだか悔しいし、ちょっとだけムカつく。
「これからは俺が全部するんで、先輩はずっと座っててください」
「もう、何それ。そんなことしてたら石になっちゃうよ」
思わず笑いながら返すと、「なんすか、それ」と八木くんは一瞬きょとんとしてから、我慢できないみたいにプッと吹き出すように笑った。
八木くん、こんな笑いかたもするんだ…。
なんて思ったのも束の間、その表情はすぐにいつもの真顔に戻ってしまった。