遅かれ、早かれ、恋になりまして。

普通の、有馬さん。
有馬千春という人間。

仕事中の有馬さんしか、私は知らない。

会議室で冷静に話す顔。資料を見ながら質問する顔。いつも落ち着いていて、何を考えてるのか簡単には見せない顔。でも時々、ほんの少しだけ柔らかく笑う。あの瞬間が、ずるい。

電車で見る横顔とか、「もっと自信持っていいと思いますよ」って言った時の声とか、たまにあがる口角とか、そういう小さな断片だけが頭に残っていて、気づけば私は仕事してる有馬さん以外を想像してしまっていた。


そっか……。

寂しい。

私、寂しいんだ。


私だけが、有馬さんに見透かされてる気がする。会議中も、ちょっとした表情も、言葉に詰まるタイミングも、全部気づかれているみたいで。手のひらの上で転がされているような感覚になるのに、あっちは自分のことをほとんど見せてくれない。

何を考えてるのか。
何が好きなのか。
どんな時に笑うのか。

私は何も知らない。

それが、寂しくて仕方ないんだ。


「…怖いんだよね、踏み込むのが」

「ヤヨは意外とそうだよね」

「失敗したくないから、何度も確かめて試しちゃう」


言いながら、自分でも苦笑いしたくなる。これが、ずっと自分の弱さだと思ってた。仕事だけじゃない。何に対してもそうだ。

優柔不断で、決めきれない。

もし違ったらどうしよう。
もし選択を間違えてたら。
もし自分だけが勘違いしてたら。

そう考えてしまうから、何度も確認して、慎重になって、結局一歩踏み出すのが遅くなる。
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