【大河ドラマ】忙しい人のための新・安倍晴明物語
第4話 式神
天慶五年(942)夏、屋敷の外から鈴の音が聞こえたので、晴明が眠気を抑えながら様子を見に行くと、門の前で玉屑が待っていた。彼女は白い外套を羽織り、頭巾を目深に被っている。驚き戸惑う晴明をよそに、玉屑は淡々と「ここに泊めてほしい」と言った。晴明は訳も分からぬまま、ちょうど空いていた東の対の屋に案内した。
夜が明けて、晴明は賀茂忠行と保憲に事情を説明した。二人は玉屑を快く受け入れ、忠行はずっと賀茂邸に住んで構わないと彼女に媚びへつらう。忠行は神饌と称し、玉屑への朝餉を準備させようとする。玉屑いわく、神は食事を摂取しなくても生きていけるが、結局忠行の押しに負けて、皆と食事を共にすることになった。しかし、下級貴族の粗末な食事は、彼女の口に合うはずもなかった。
晴明が出勤しようとすると、玉屑も同行しようとした。だが、玉屑が陰陽寮に来たら間違いなく騒ぎになるので、晴明は固く断る。彼の説得の甲斐もあり、玉屑は賀茂邸に留まることになった。
陰陽寮に到着した晴明と保憲は、突然の玉屑の来訪について話し合う。晴明の夢が本当であれば、彼女の光臨は妖神が平安京にいることを示している。これまで、妖神は皇族の寵姫となって人民に危害を及ぼしていた。それなのに、どうして彼女がしがない下級貴族の屋敷を訪ねてきたのか、晴明には分かりかねた。
その頃、玉屑は忠行に邸内を案内されていた。忠行は家人に東の対の屋を掃除させ、彼女が末永く賀茂家に留まり福をもたらすことを祈った。一人残された玉屑は、誰にも見つからぬよう密かに屋敷を抜け出し、陰陽寮へ向かう。真夏の日差しに照らされ、朱雀門の前に着いたときには全身汗だくになっていた。
玉屑が木陰で休んでいると、藤原伊尹が声をかけてきた。玉屑が「暑くて具合が悪い」と伝えると、伊尹は彼女を典薬寮に案内した。典薬寮の医師たちは、都の女子には見えない玉屑の風貌に戸惑う。ある者は仙女だと見とれ、ある者は妖魔だと恐れた。
玉屑の診察は、典薬寮の中でも特に優秀な医師の丹波康頼が務めた。彼は病人であればどんな存在でも治療する主義の男だ。診察の結果、玉屑は熱中症だった。症状が和らぐまで、彼女は床に臥していた。その間、伊尹がずっと看病をしていた。玉屑が賀茂家の守り神だと自己紹介をすると、伊尹は「式神は実在したのだ」と珍しがった。式神とは、陰陽師が使役する鬼神である。だが、実際にその姿を見たものはいない。初めて式神という言葉を知った玉屑は、その立場を利用すれば自由に行動しやすくなると思い立つ。
玉屑が安静にしていると、遠くのほうから鐘鼓の音が鳴り響いた。陰陽寮の人間が鐘鼓を叩き、時刻の移り変わりを知らせているのだ。まだ昼過ぎで、日が高く昇っている。陰陽寮の退勤時刻が迫っており、玉屑が帰らなければ晴明たちに不在を知られてしまう。だが、辺りに日差しを避けるものはない。彼女がどうすべきか思案していると、伊尹が牛車で送り届けると提案する。玉屑は固辞したが、伊尹の強い押しに根負けして典薬寮を出発した。
牛車の前に来た玉屑は、乗り方が分からず戸惑う。玉屑が諦めて宮中に戻ろうとすると、伊尹が彼女を抱きかかえて牛車に乗せた。周囲に居合わせた貴族たちは驚き、伊尹の新しい恋人かと噂しあった。
牛車に揺られながら、玉屑は伊尹に助けてもらった礼として何をするか考えていた。伊尹は「礼などいらないから、玉屑と親交を深めたい」と述べる。彼の言う“親交”とは男女の契りだと悟った玉屑は軽くあしらい「賀茂家は暦道の家系だから、明年の暦本を届ける」と約束した。
晴明と保憲が帰宅すると、ちょうど伊尹の牛車から降りる玉屑を目撃した。晴明と目が合った玉屑は気まずそうな様子で、足早に屋敷の中へ入っていった。
帰宅してすぐに、玉屑は皆を集めて「今日から式神として賀茂家に仕える」と宣言する。今日、彼女は賀茂氏一族の前途を明るくするために伊尹と親しくなり、暦本を贈る約束をしたという。藤原氏のような上級貴族の暦本を作る役目は、大抵の場合陰陽寮の長官である陰陽頭が担っている。保憲は暦生の中でも優秀な生徒とはいえ、普通ならこの役目を任される立場にない。忠行は五体投地する勢いで玉屑を拝み、彼女は賀茂家に富をもたらすために光臨したのだと褒め称えた。
その夜、皆が寝静まった頃、晴明は市女笠を持って玉屑の部屋を訪ねた。彼は玉屑に市女笠を渡し「この笠があれば日差しを避けられるし、熱中症になることもない」と伝える。玉屑は熱中症のことを賀茂家の誰にも明かしていなかったので、驚き戸惑った。晴明は帰宅時の玉屑の顔色を見て、体調を崩したことを察していたのだ。
さらに、晴明は玉屑に忠告をする。神仙とはいえ、女子が単独で行動するのは危険が伴う。外出する際は自分を同行させてほしいと。玉屑は人生で初めて叱られたことに驚きながらも、反省した。晴明は、彼女に今後は一人で行動しないと約束させた。
真夜中が近づいていた。部屋に男女が二人きりでいるのはよくないと感じた晴明は、退出しようとする。ところが、玉屑に引き止められた。彼女は、晴明に来てほしい場所があるようだ。
夜が明けて、晴明は賀茂忠行と保憲に事情を説明した。二人は玉屑を快く受け入れ、忠行はずっと賀茂邸に住んで構わないと彼女に媚びへつらう。忠行は神饌と称し、玉屑への朝餉を準備させようとする。玉屑いわく、神は食事を摂取しなくても生きていけるが、結局忠行の押しに負けて、皆と食事を共にすることになった。しかし、下級貴族の粗末な食事は、彼女の口に合うはずもなかった。
晴明が出勤しようとすると、玉屑も同行しようとした。だが、玉屑が陰陽寮に来たら間違いなく騒ぎになるので、晴明は固く断る。彼の説得の甲斐もあり、玉屑は賀茂邸に留まることになった。
陰陽寮に到着した晴明と保憲は、突然の玉屑の来訪について話し合う。晴明の夢が本当であれば、彼女の光臨は妖神が平安京にいることを示している。これまで、妖神は皇族の寵姫となって人民に危害を及ぼしていた。それなのに、どうして彼女がしがない下級貴族の屋敷を訪ねてきたのか、晴明には分かりかねた。
その頃、玉屑は忠行に邸内を案内されていた。忠行は家人に東の対の屋を掃除させ、彼女が末永く賀茂家に留まり福をもたらすことを祈った。一人残された玉屑は、誰にも見つからぬよう密かに屋敷を抜け出し、陰陽寮へ向かう。真夏の日差しに照らされ、朱雀門の前に着いたときには全身汗だくになっていた。
玉屑が木陰で休んでいると、藤原伊尹が声をかけてきた。玉屑が「暑くて具合が悪い」と伝えると、伊尹は彼女を典薬寮に案内した。典薬寮の医師たちは、都の女子には見えない玉屑の風貌に戸惑う。ある者は仙女だと見とれ、ある者は妖魔だと恐れた。
玉屑の診察は、典薬寮の中でも特に優秀な医師の丹波康頼が務めた。彼は病人であればどんな存在でも治療する主義の男だ。診察の結果、玉屑は熱中症だった。症状が和らぐまで、彼女は床に臥していた。その間、伊尹がずっと看病をしていた。玉屑が賀茂家の守り神だと自己紹介をすると、伊尹は「式神は実在したのだ」と珍しがった。式神とは、陰陽師が使役する鬼神である。だが、実際にその姿を見たものはいない。初めて式神という言葉を知った玉屑は、その立場を利用すれば自由に行動しやすくなると思い立つ。
玉屑が安静にしていると、遠くのほうから鐘鼓の音が鳴り響いた。陰陽寮の人間が鐘鼓を叩き、時刻の移り変わりを知らせているのだ。まだ昼過ぎで、日が高く昇っている。陰陽寮の退勤時刻が迫っており、玉屑が帰らなければ晴明たちに不在を知られてしまう。だが、辺りに日差しを避けるものはない。彼女がどうすべきか思案していると、伊尹が牛車で送り届けると提案する。玉屑は固辞したが、伊尹の強い押しに根負けして典薬寮を出発した。
牛車の前に来た玉屑は、乗り方が分からず戸惑う。玉屑が諦めて宮中に戻ろうとすると、伊尹が彼女を抱きかかえて牛車に乗せた。周囲に居合わせた貴族たちは驚き、伊尹の新しい恋人かと噂しあった。
牛車に揺られながら、玉屑は伊尹に助けてもらった礼として何をするか考えていた。伊尹は「礼などいらないから、玉屑と親交を深めたい」と述べる。彼の言う“親交”とは男女の契りだと悟った玉屑は軽くあしらい「賀茂家は暦道の家系だから、明年の暦本を届ける」と約束した。
晴明と保憲が帰宅すると、ちょうど伊尹の牛車から降りる玉屑を目撃した。晴明と目が合った玉屑は気まずそうな様子で、足早に屋敷の中へ入っていった。
帰宅してすぐに、玉屑は皆を集めて「今日から式神として賀茂家に仕える」と宣言する。今日、彼女は賀茂氏一族の前途を明るくするために伊尹と親しくなり、暦本を贈る約束をしたという。藤原氏のような上級貴族の暦本を作る役目は、大抵の場合陰陽寮の長官である陰陽頭が担っている。保憲は暦生の中でも優秀な生徒とはいえ、普通ならこの役目を任される立場にない。忠行は五体投地する勢いで玉屑を拝み、彼女は賀茂家に富をもたらすために光臨したのだと褒め称えた。
その夜、皆が寝静まった頃、晴明は市女笠を持って玉屑の部屋を訪ねた。彼は玉屑に市女笠を渡し「この笠があれば日差しを避けられるし、熱中症になることもない」と伝える。玉屑は熱中症のことを賀茂家の誰にも明かしていなかったので、驚き戸惑った。晴明は帰宅時の玉屑の顔色を見て、体調を崩したことを察していたのだ。
さらに、晴明は玉屑に忠告をする。神仙とはいえ、女子が単独で行動するのは危険が伴う。外出する際は自分を同行させてほしいと。玉屑は人生で初めて叱られたことに驚きながらも、反省した。晴明は、彼女に今後は一人で行動しないと約束させた。
真夜中が近づいていた。部屋に男女が二人きりでいるのはよくないと感じた晴明は、退出しようとする。ところが、玉屑に引き止められた。彼女は、晴明に来てほしい場所があるようだ。