【大河ドラマ】忙しい人のための新・安倍晴明物語

第9話 皆既月食

 天慶六年(943)夏、晴明は己の罪を自白するために文武兼のもとを訪ねる。だが、晴明が到着した頃、武兼はすでに秦連茂から落雷事件の報告を受けていた。連茂は玉屑から龍神の降臨を告げられていた。彼は法成橋にいた人物を龍神の化身だと思っているようだ。晴明は黙って聞いていたが、やがて武兼に気づかれた。そして、玉屑を重要参考人として連れてくるように命じられた。

 晴明は玉屑を連れて法成橋に赴き、朝廷の重臣と陰陽寮の上層部に事の経緯を説明する。「保憲の五龍祭に龍神が呼応し、人間に化身して雨を降らせた。私は同じ神仙として龍神を見守っていたのだ」と。玉屑は多くの矛盾点について質問攻めに遭う。即興で考えた回答ではあったが、彼女は何とかその場を収めることに成功した。

 法成橋の中央には、血痕のほかに黒い塵の固まりがあった。兼通に見せられた塵と同じものだった。おそらく、雷劫に巻き込まれたのだろう。玉屑は久しぶりの怪異に驚いたが、烏の正体や目的は依然として不明である。

 先ほどまで疑われていたはずの保憲は、龍神を召喚し民衆を大干ばつから救ったと称賛された。玉屑の自堕落な生活を非難していた賀茂忠行も「やはり玉屑は賀茂氏に福をもたらすため光臨したのだ」と大いに喜んだ。

 帰宅後、晴明は玉屑に雷劫について尋ねる。雷劫は神仙になる素質をもつ者に対して、天から与えられる一度きりの試練である。ゆえに、この先晴明が雨乞いをしても雷に打たれることはない。天界に名乗り出ないかぎり、雷劫を経験しても仙籍には登録されない。彼女は「仙籍から外れていれば掟に縛られることもなく、やりたい放題だ」と冗談を言った。

 天慶七年(944)秋、晴明は皆が寝静まった後、人知れず天文道の勉強をしていた。彼は雨と曇りの日を除き、毎晩夜空を見上げて星の位置を記録した。陰陽寮において、天文道は生徒数が少ない。そこで、天文道を習得して天体観測を手伝おうと思い立った。晴明は「自分に神仙の素質があるのなら、きっと師匠よりも長生きするのだろう」と思い、保憲亡き後も一人で生きていく準備をしているのだ。玉屑は彼の勉強をそばで見守っていた。彼女は、地獄で罪に問われること以外は口出ししないという。

 その日の夜は、皆既月食が見られた。『晋書』天文志では、貴人の不幸を示す天象である。明日には天文博士の十市良佐が天文密奏を行うだろう。玉屑は「平安京には貴族が何百人もいるから、誰かには当てはまるだろう」と冗談を言った。その上で「朝臣は占いや天象に無知だから、陰陽師や天文博士の言うことを信じて疑わない。陰陽寮はいとも簡単に朝廷を操れる」と鋭い指摘をした。

 一か月後、藤原忠平が重病に倒れた。典薬寮の名医が診察と治療のために忠平の屋敷に押し寄せ、大勢の僧侶が病気平癒の加持祈祷を修した。だが、いずれも効果はなかった。この時、晴明は皆既月食が忠平の病を示唆していたことを悟る。事前に天変を奏上していた良佐は、朝廷から褒美を賜ったという。

 夜遅くに、藤原伊尹が賀茂邸を訪ねてきた。保憲は就寝中のため、晴明は追い返そうとする。しかし、伊尹は保憲ではなく玉屑に用があった。伊尹は玉屑と二人で話がしたいというので、彼女が襲われないか心配な晴明は密かに御簾の外側から聞き耳を立てた。

 医師たちの懸命な治療により忠平は一命を取り留めたが、予断を許さない状況である。伊尹は忠平を完治させるために玉屑を頼ろうとするが、彼女は「衆生の運命には干渉しない」と冷たく断る。人間界の問題は、人間だけで解決しろと。

 玉屑の回答を聞いてもなお、伊尹は帰ろうとしない。せっかく来たのだから、交流を深めたいのだという。玉屑は彼が男女の契りを交わしたいのだと察した。しかし、現世に来てはや一年以上誰とも交わっていない彼女は、伊尹と寝るのも悪くないと言い放つ。晴明は聞くに耐えず部屋に乱入し、伊尹を追い出した。もっとも玉屑は晴明が外に控えていることに気づいており、扇情的な言葉を口にすれば彼が来てくれると信じていたのだ。

 二人きりでいるのを気まずく感じた晴明は退出しようとしたが、玉屑に引き止められる。彼女は晴明の禁欲的な態度をたしなめた。「そんなことでは、意中の女子を他の男に取られてしまう」。晴明は反論した。「夢における玉屑は、満月の夜になるといつも一人で過ごしていた」。今夜はちょうど満月である。すると、玉屑はこう答えた。「自分の情事をのぞき見されるのは不快だし、青少年の教育に悪影響を及ぼすからだ」と。晴明は驚きながらも、態度を改めることなく退出した。

 玉屑は衆生一人一人の寿命を把握していないため、忠平の病が死に至るものかは分からない。冥界の規則において、妖魔が関与している場合を除き人間の治療はご法度である。規則を破れば泰山府君の使者が平安京に飛んできて、玉屑を連れて帰ってしまう。晴明は一月前に左近衛府の陣頭において狐が集まった怪異を想起した。その中に妖狐がいた可能性がある。晴明は忠平を訪ねて狐が取り憑いていないか確かめようと思い立つ。ところが、玉屑は同行を拒んだ。自分がいれば、衆生は必ず救いを求めてくるからだと。仕方がないので、晴明は保憲と二人で忠平を訪ねた。

 屋敷で床に臥していた忠平は、晴明の姿を見るなり人払いをして二人きりになった。忠平の体から美少女が現れ、晴明を妖神と仰いだ。
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