本好きで恋愛苦手な私が推し小説家に溺愛されるまで
◇◇◇

「そろそろ時間……」

 私はリビングの壁時計を見上げた。
 締切の18時が近づき、ハラハラした気持ちのまま夕食を作っている。
 15時頃にコーヒーとカステラを持って行った時は、鬼気迫る雰囲気が背中から醸し出されていて。
 キーボードを打つ音だけが書斎の中に響き渡っていた。私にできることはもう何もなくて、ひたすら神様に祈るだけ。

 ガチャッ

 書斎のドアノブを回す音が聞こえ、私は手を止めて書斎の方を見つめる。
 ゆっくりとドアが開き、出て来たのは、ボサボサ頭に無精髭の男――ボロボロになった藍堂先生だった。

「脱稿した……」

 かすれた声は、とても小さかったけれども私の耳にはっきりと聞こえた。

「藍堂先生、お疲れ様です……!」
「ん……夕食まで寝る……」

 藍堂先生は私にそう言ってから、また書斎に戻っていった。

(原稿が間に合って本当によかった~~~~!)

 私はガッツポーズをしながら、無言で喜びを噛み締める。
 あんなにボロボロになるまで頑張った藍堂先生に、栄養があって美味しい料理を食べさせたい。
 私は心からそう思った。

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