本好きで恋愛苦手な私が推し小説家に溺愛されるまで


 昼食を食べ終えたところで、藍堂先生が「ああ、そうだ」と何か思い出した様子で話し始める。

「なんでしょう?」
「今夜は苅安出版の美咲さんとディナーに行くので、夕食は作らなくて良いから」

 美咲さん――あの華やかで綺麗な編集部員さんと。さっきまでの幸せな気持ちが一気に消えた。
 私は声が震えないよう、なんとか笑顔を作って「わかりました」と返事をした。
 席を立ち、書斎に向かって歩き出す藍堂先生の背中を見つめる。

「そうそう、」

 藍堂先生は振り返って、笑顔で言った。

「多分帰らないから、明日の朝御飯も要らない」

 目の前が真っ暗になる。
 二人はつまり、一夜を共にできる関係――恋人同士になるんだ……。

 ガラガラと足元が崩れていくようで。
 大量の鉛を飲み込んだみたいに、胸が苦しい。
 夢だったらいいのに。
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