本好きで恋愛苦手な私が推し小説家に溺愛されるまで
カフェを出てすぐ、鷹司さんが立ち止まる。
「しまった、ジュエリーショップに万年筆を忘れて来た。取りに戻るから君はこの辺りで待っていてくれ」
「はい」
鷹司さんが走っていくのを見送った私は、カフェのすぐ横にある小さな公園のベンチに座って待つことにした。
「あれ……碓氷さん?」
「え?」
頭上から声をかけられて顔を上げると、声の主は以前の会社にいた上司の佐山さんだった。
思えば社長が夜逃げして以来、怒涛の毎日で会社勤めしていた頃が遠い昔のような気さえする。
「佐山さん、お久しぶりです」
私は立ち上がって軽く会釈をするが、佐山さんはじぃーっと私を凝視して何も言わない。
今まで見たことのない佐山さんの様子に、私は戸惑う。
「あの……?」
「碓氷さん……すっごく綺麗になったね」
「え」
「今の碓氷さんだったら、僕アリかも」
「!?」
困惑する私をよそに、佐山さんは「そうだ、そこのカフェに入ろうよ。どうせ暇でしょ」と言いながら、私の腕を掴もうと手を伸ばして来た。
(佐山さんってこんな人だったの!?)
会社にいた時とまるで違う一面を見せられて混乱に陥る私は、うまく断りの言葉が出てこなくて、後退りするしかなかった。