【色彩奉納記】
第一章第七幕【守りたいもの】
倉庫の扉は薄く開いていた。
僕は息を整える間もなく、中を覗く。
薄暗い室内に、一つの人影があった。
牡丹様だ。
床に座り込んで、分厚い本を膝の上に広げている。
「牡丹様…!」
声をかけようとして、止まった。
牡丹様の表情が、見たことのないものだったから。
怖いのでも、悲しいのでもない。
ただ、静かに、受け入れているような顔。
それが何より怖かった。
牡丹様はゆっくりとページをめくる。
そしてある一点で、手が止まった。
長い沈黙。
「…そう、なんだ」
呟いた声は、ひどく穏やかだった。
僕は気づけば扉を押し開けていた。
「牡丹様。その本に、何が書いてありましたか」
牡丹様がゆっくりと顔を上げる。
月明かりの中で、その瞳が揺れた。
「わたしの、結末です…。わたしは七回彩ったら死んでしまうらしくて。受け入れないとですね。道具として…」
牡丹様は本をそっと閉じた。
そして顔を上げて、微笑んだ。
「だから、大丈夫ですよ。凛紅さん」
───大丈夫。
その言葉が、僕の中で何かを壊した。
大丈夫なわけがない。
笑える話じゃない。
なぜ貴方はそんな顔で笑えるんですか。
気づいたら僕は牡丹様の前に膝をついていた。
震える手で、そのか細い両手を包む。
「申し訳ございません…ッ」
声が、滲んだ。
「貴方様は決して道具なんかじゃない。一人の人間です…ッ」
「そして…僕が唯一、絶対に守りたい大切な人です」
「七回しかなくとも。僕は貴方を幸せにします」
牡丹様の手が、微かに震えた。
「わたしを幸せに…?」
「はい。絶対に貴方を幸せにします」
自然と握る力は強くなっていた。
だがこの手を離したくない。
この手を離してしまったら、貴方は消えてしまいそうで。
「…凛紅さん。わたし長く生きられないんですよ…?」
「…あの日から、凛紅さんのことを綺麗な人だと思っていました。そんな凛紅さんにはもっと相応しい人がいます」
「…でもわたしも、」
───「少しだけなら幸せになる権利はあるのかもしれないですね」
彼女の声は震えていた。
でもそれ以上に幸せそうに笑っていて。
ふと握り返される両手。
「凛紅さん。顔を上げてください」
「仲直り、しませんか…?」
「…もちろんです。牡丹様」
僕は息を整える間もなく、中を覗く。
薄暗い室内に、一つの人影があった。
牡丹様だ。
床に座り込んで、分厚い本を膝の上に広げている。
「牡丹様…!」
声をかけようとして、止まった。
牡丹様の表情が、見たことのないものだったから。
怖いのでも、悲しいのでもない。
ただ、静かに、受け入れているような顔。
それが何より怖かった。
牡丹様はゆっくりとページをめくる。
そしてある一点で、手が止まった。
長い沈黙。
「…そう、なんだ」
呟いた声は、ひどく穏やかだった。
僕は気づけば扉を押し開けていた。
「牡丹様。その本に、何が書いてありましたか」
牡丹様がゆっくりと顔を上げる。
月明かりの中で、その瞳が揺れた。
「わたしの、結末です…。わたしは七回彩ったら死んでしまうらしくて。受け入れないとですね。道具として…」
牡丹様は本をそっと閉じた。
そして顔を上げて、微笑んだ。
「だから、大丈夫ですよ。凛紅さん」
───大丈夫。
その言葉が、僕の中で何かを壊した。
大丈夫なわけがない。
笑える話じゃない。
なぜ貴方はそんな顔で笑えるんですか。
気づいたら僕は牡丹様の前に膝をついていた。
震える手で、そのか細い両手を包む。
「申し訳ございません…ッ」
声が、滲んだ。
「貴方様は決して道具なんかじゃない。一人の人間です…ッ」
「そして…僕が唯一、絶対に守りたい大切な人です」
「七回しかなくとも。僕は貴方を幸せにします」
牡丹様の手が、微かに震えた。
「わたしを幸せに…?」
「はい。絶対に貴方を幸せにします」
自然と握る力は強くなっていた。
だがこの手を離したくない。
この手を離してしまったら、貴方は消えてしまいそうで。
「…凛紅さん。わたし長く生きられないんですよ…?」
「…あの日から、凛紅さんのことを綺麗な人だと思っていました。そんな凛紅さんにはもっと相応しい人がいます」
「…でもわたしも、」
───「少しだけなら幸せになる権利はあるのかもしれないですね」
彼女の声は震えていた。
でもそれ以上に幸せそうに笑っていて。
ふと握り返される両手。
「凛紅さん。顔を上げてください」
「仲直り、しませんか…?」
「…もちろんです。牡丹様」