いじわる主治医は、私にだけ甘い
ベッドルームは別々だけど、なんとなく彩人が近くにいることが意識されてよく眠れないまま、翌日になった。

“Good morning, Dr. Kirigaya. Your car is ready.”

ホテルを出ると当たり前のように車が用意されてて、ホテルマンは笑顔で彩人に話しかけた。
彩人はキーをクルクル回しながら乗り込んだ。

“Perfect. Thank you, as always.”

「ねぇ。これさ、この車さ、もしかしなくてもベンツだよね」

「あぁ、あの人顔なじみでさ。いつも用意してくれるんだ」

「何者よ」

車はなめらかに発進した。
見た目はきついのに、中身は優しい彩人らしい丁寧な運転だ。

「ただの産婦人科医だよ。でも今はある患者に手を焼いてて、ハワイに連れてくるくらいには困ったちゃんのお世話係かもね」

「こんなに豪華な車乗せても手術はしないから」

「そんくらいで落ちないこと分かってるよ」

「こっちきてからお腹の調子もいいの。治ったのかも」

「治ってないから。そんな魔法かけられたらいいんだけどな」

ハンドルに顔を埋め、彩人は参ったというような声を出す。

「はあー……今年入ってから週3で大学で講義も持ってるし、ほんとに忙しくて」

「え!? 彩人ってあの病院だけじゃないの?」

「ちがうよ。親父が教授だったからそっちも頼まれて……まじ時間ない」

「なのにごめんね。私のために」

「むしろ逆だろ。抜け出すきっかけをくれてありがとう冴。冴ってちょっとした砂漠の中にいる滝みたいなやつなんだよな。他の奴とはちがくて、おぉって忘れられなくなる」

「滝って(笑)でも、彩人の中の何かを私が動かせたならいいの。ただ実際動いたのは彩人だよ。彩人はすごいよ。自信を持って」

車はカハラへ入っていく。
まるで自分には縁のなかった高級住宅街で、背筋が伸びる。
この服で良かったかななんて、いまさらながら思ったりした。
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