キミと歌姫はじめました!
Noirもまた同じだった。
淡々とした姿勢のまま、指先だけはやけに柔らかい。
ギターの音は優しく、それでいて芯がある。
2人の音が重なるたびに、曲が完成していく。
コメント欄は一気に加速していた。

《これだ……ヨルガオマジ好き……》
《懐かしすぎて泣く》
《初期から見ててよかった》
《やばい、普通に鳥肌》
《2人とも楽しそうなのいいよね》
《仮面つけてるのに雰囲気わかるのすごい》

画面の向こうで、誰かの記憶が揺れている。
昔の曲。まだ誰にも届かなかった頃の歌。
それが今、何万人もの前で鳴っている。
Irisは歌いながら、ふと感じていた。
(ああ、ちゃんと届いてる)
ただ画面の向こうじゃない。
誰かの時間に触れている感覚。
Noirのギターが一瞬だけ強く鳴る。
その音に合わせて、Irisの声が少しだけ高く伸びた。
夜の中に、ひとつの光が差すように。

* * *

そして―――やがて、最後の一音が消えた。
静寂。
そして――

《Irisの声やべー!!!》
《っぱエルシーなんだよなぁ》
《こーいうのでいいんだよ》
《Noirのギターまじアツい》
《最高すぎる》

コメント欄はまだ熱を持ったままだった。
Irisは小さく息を吐いて、楽しそうに笑った。
「みんなありがとう〜〜!」
Noirも静かにギターを下ろす。
「……いい曲だよね」
その一言に、Irisは少しだけ目を細めた。
「うん!」
仮面の奥で、確かに笑っていた。
それは、昔の曲なのに。
今が一番、完成している気がした。
「それじゃあ、今日はここまでです」
Noirの声が、すっと空気を切り替えた。
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