キミと歌姫はじめました!
さっきまでの熱が、少しだけ落ち着く。
Irisもそれに合わせるように、軽く手を振った。
「ライブ、楽しみにしててください!」
明るい声。
その一言で、コメント欄がまた盛り上がる。
《絶対行く!!》
《まじ抽選当てる!!》
《楽しみすぎる》
「次会うときはライブ会場!Noirといっしょに頑張ります!」
「「ありがとうございました!」」
Noirが小さく頭を下げる。
そして――
配信終了。
画面が暗転した瞬間、2人は同時に息を吐いた。
「ふぅ……」
「終わったね」
張っていた糸が、少しだけ緩む。
有栖はそのまま両手を上に伸ばした。
「はぁーー……疲れたぁ」
伸びをしながら、仮面の紐をゆっくりと外す。
タッセルが揺れて、鈴が鳴った。
零も同じように黒い狐面を外す。
そうしてようやく、いつもの高校生の顔に戻った。
「で、どうなってる?」
零の一言に、有栖はスマホを手に取った。
公式サイト。
ライブ抽選応募ページ。
「えっと……」
画面を開いた瞬間、有栖の目が少し見開かれる。
「やーっば……6000超えてる」
「え、嘘。もう?」
零が驚いたように眉を上げる。
花園ドームの収容人数はおよそ一万人前後。
「もう半分近くいってるってことじゃん……」
有栖はぽつりと呟いた。
じわじわと、実感が湧いてくる。
(ほんとに……見てくれてるんだ)
画面の向こうの数字が、ただの数字じゃなくなる。
誰かが、来たいと思ってくれている。
その事実が、どうしようもなく嬉しかった。
気づけば、零と目が合っていた。
一瞬の沈黙。
そして――
「私達すごくない?」
「これは......調子乗っちゃうね」
どちらからともなく、くすっと笑った。
「よし」
有栖が笑う。
「やるしかないね、これは。」
「うん」
零も小さく頷く。
まだ完成していない曲。
まだ見えない本番。
それでも――
確かに、ここまで来ている。
その実感だけが、胸の奥で静かに熱を持っていた。