キミと歌姫はじめました!
私達の音
それから時間は目まぐるしく過ぎていき―――
気づけば、ライブまで残り一週間を切っていた。
「……はぁぁ……」
自室のベッドに寝転がったまま、有栖は天井を見上げていた。
そのまま、ゆっくりと両手で顔を覆う。
(やばい)
その一言しか出てこない。
ラグの上には、座椅子に腰を下ろした零。
顎に手を当てたまま、ノートに何かを書いている。
真剣な目。
だが次の瞬間――
二重線。
すぐに消される。
また書く。
また消す。
その繰り返し。
「……ダメだなぁ」
零が小さく呟く。
「あえ、零も?」
有栖がベッドから顔だけ起こす。
「うん」
また、即答だった。
部屋の空気が、少しだけ重くなる。
未だに――何も決まっていない。
ジャンルも。
使う楽器も。
歌詞も。
メロディも。
全部、白紙のまま。
(今までで一番やばいかも……)
有栖は再びベッドに沈み込んだ。
今までは違った。
どちらかが詰まっても、もう片方が必ず形にしてくれた。
有栖が歌詞で迷えば、零が音をつける。
零がメロディで止まれば、有栖が言葉を落とす。
そうやって、いつも完成してきた。
なのに今回は――
「何も出てこないね」
零がぽつりと言う。
その言葉に、有栖は天井を見たまま答える。
「うん……出ない」
沈黙。
時計の針の音だけが、やけに大きく感じる。
(こんなこと、今までなかったのに)
有栖は唇を噛む。
2人なら大丈夫だと思っていた。
どんな曲でも、どんな状況でも。
でも今回は違う。
始まり方すら見えていない。
「……ジャンルすら決まってないって、逆にすごいよね」
有栖が苦笑する。
「ポジティブに変換するのが難しいくらい、ね。」
零も薄く笑った。
でも、その笑みはいつもより少しだけ浅い。
またノートに視線を落とす。
書く。
消す。
書く。
消す。
(何が足りない)
零の手が止まる。
(どこが間違ってる)
有栖も天井を見つめたまま考える。
でも、答えは出ない。
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