キミと歌姫はじめました!
ホテルにチェックインを済ませると、各自部屋で荷物を整理した。
その後すぐロビーに降りてスタッフさんと合流。
「お疲れさまです。今日は最終確認になります」
穏やかな声で始まった打ち合わせに、有栖は自然と姿勢を正す。
零もいつもの柔らかい雰囲気のまま、
しかし視線だけは少しだけ鋭くなっていた。
テーブルには資料が並べられている。
ライブの進行表。
セットリスト案。
会場スタッフさんへの共有事項。
コール&レスポンスのタイミング。
「まず、曲順ですが――」
スタッフさんの説明が始まる。
2人はそれを聞きながら、何度も頷く。
「この流れだと、最初の入りはこの曲で……」
「はい」
「一旦ここで挨拶挟みます」
「なるほど」
淡々と進む確認作業。
けれど、その一つ一つが本番に直結しているのが分かる。
(...........やば。唐突に実感来た)
ただの練習じゃない。 
ただの配信でもない。
人の前に立つということ。
「コール&レスポンスはこのタイミングでお願いします」
スタッフさんが言う。
「ここで観客に一度声を出してもらう形になるので」
「了解です」
零が静かにメモを取る。
その横で、有栖も小さく頷いた。
頭では理解しているのに、どこかまだ現実味が薄い。
でも、準備は確実に進んでいる。
少しずつ、明日に近づいていく感覚。
打ち合わせは続く。
細かい動線。
ステージ袖での待機位置。
トラブル時の対応。
全部が、現実のライブのためのものだった。
有栖はその一つひとつを聞きながら、ゆっくりと息を吐く。
(ほんとに明日……なんだなぁ)
隣を見ると、零は変わらない表情で資料を見ていた。
でも、その指先だけは、ほんの少しだけ動いている。
何かを確かめるように。
明日に向けて、静かに準備しているように。
ホテルのロビーには、夜の気配が少しずつ入り込んでいた。
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