キミと歌姫はじめました!
打ち合わせを終えたあと――
2人が向かったのは、零の部屋だった。
零が取った部屋には、防音室がついているからだ。
壁際に立てかけられたギターケース。
机の上にはノートとペン。
そして、何度も使い込まれたマイクスタンド。
「……なんか分かんないけど、落ち着く。」
有栖が小さく呟く。
「初めて来たホテルなのにね」
零もふっと笑って頷いた。
「よし.....やろうか。」
その一言で、空気が切り替わった。
最初は、新曲からだった。
「頭からもう一回いくよ」
「うん」
じゃらん、と弦が鳴る。
何度も弾いてきたはずのイントロ。
でも今日は、少しだけ違う。
(明日、これを――)
そう思った瞬間、有栖の喉がわずかに詰まった。
「……ごめん、もう一回いい?」
「了解。」
優しく微笑んでもう一度最初から弾き直す。
その優しさに、少しだけ肩の力が抜ける。
「……よし」
小さく息を整える。
そして――
「―――」
声を乗せる。
今度は、途切れなかった。
繰り返す。
何度も、何度も。
Aメロ。Bメロ。サビ。
「そこ、やっぱもう少し伸ばす?」
「うーん.....でも伸ばしすぎると次入れない」
「じゃあ一拍だけ削ろうか」
「そうしよう」
すぐに試す。
違うと思えば、戻す。
良ければ、そのまま進める。
前日だと言うのに、発想が止まらなかった。
「ここでハンドクラップ、入るよ」
「ん。」
たん...、たん。
入り出しが少しズレる。
「……今ズレたね」
「うん、完全にズレた」
顔を見合わせて、小さく笑う。
「もう一回やろう」
「うん」
たん、たん。
今度は合った。
ギターのリズムと、手拍子と、声。
三つが重なった瞬間――
「……今の、すごくいい」
零がぽつりと言った。
「うん、めっちゃよかった」
有栖も自然に笑う。
(あぁ......これだ)
言葉にしなくても、分かる。
気づけば、時間はどんどん過ぎていた。
一曲終わるたびに、少し話して。
また最初から。
何度も。本当に何度も。
「……あと一回だけ」
「さっきもそれ言ってたよ?」
「これがほんとの最後だから!!」
「信用ならないな〜....。
そろそろ寝ないと明日に響くよ?」
「今回はほんと!」
零が軽く笑ってピックを握り直した。
でも結局、その『最後』は何度も更新された。
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