キミと歌姫はじめました!
* * *
「じゃあ、ここまでで一度休憩入ります」
スタッフの声が響いて、空気がふっと緩む。
リハーサルは、気づけば終わっていた。
立ち位置確認。
セトリの通し。
照明の当たり方。
音響操作。
コール&レスポンスの流れ。
曲紹介のタイミング。
有栖はマイクを握ったまま、ゆっくりと息を吐く。
ドクン、ドクン、と心臓が鳴っている。
うるさいくらいに。
楽しい。
それは本当だった。
ステージに立つと音が返ってきて、光が当たる。
それだけで、自然と笑みがこぼれてしまうくらいには。
でも同時に――
(やっぱり、怖い)
それがずっと離れなかった。
失敗したらどうなる?
音が外れたら?
声が届かなかったら?
―――みんなの期待を、裏切ったら?
ここまで積み上げてきたものが、
今日ひとつで全部『なかったこと』になる気がした。
それが、どうしようもなく........怖い。
会場に入る前に決意した思いが、
一瞬にして塗り替えられていく感覚だった。
* * *
リハーサルが終わり、控室に戻る途中。
有栖は、無意識に隣を見た。
零がいつもの穏やかな表情で歩いている。
けど――少しだけ、呼吸が浅かった。
ギターケースを持つ手に、ほんのわずかな力が入っている。
(……あ)
零も、同じだ。
天才っぽく見える時もある。
何でも冷静にやってるように見える時もある。
でも今は違った。
指先が、ほんの少しだけ震えている。
有栖は一瞬だけ言葉を失った。
(零でも、こうなるんだ)
安心、とは少し違う。
でも.....一人じゃないと思えた。
* * *
控室に戻ってしばらく、2人とも黙りこんだ。
遠くでスタッフさんの声がする。
現実の音が、やけに遠く感じた。
有栖はステージ方向を見たまま、ぽつりと呟く。
「ここまでやってきたのにさ」
「うん」
「今さら怖くなるの、なんでだろうね」
自分に向けたような言葉だった。
零は少しだけ視線を落として、
「それだけ本気ってことだよ」
と言った。
淡々としているのに、優しい声だ。
有栖は苦笑する。
「……なにそれ」
でも、その言葉で少しだけ呼吸が戻った。
胸の奥はまだざわついている。
怖さは消えていない。
でも――
(ああ、そっか)
怖いってことは。
ここに立ちたいってことだ。
逃げたいくらい大事で。
失いたくないくらい積み上げてきた。
だから怖い。
その事実が、自分を支えてくれた。
零はもう一度ギターケースを持ち直していた。
震えは、まだほんの少し残っている。
でもその手は、離れていない。
逃げていない。
有栖は小さく息を吸って、吐いた。
「……よし」
誰にでもなく呟く。
「やるしかないね」
零がこちらを見て、小さく頷く。
「うん」
その一言で、十分だった。
怖さは消えない。
でもそれでも――
ステージの上に立つ理由は、ちゃんとここにあった。
「じゃあ、ここまでで一度休憩入ります」
スタッフの声が響いて、空気がふっと緩む。
リハーサルは、気づけば終わっていた。
立ち位置確認。
セトリの通し。
照明の当たり方。
音響操作。
コール&レスポンスの流れ。
曲紹介のタイミング。
有栖はマイクを握ったまま、ゆっくりと息を吐く。
ドクン、ドクン、と心臓が鳴っている。
うるさいくらいに。
楽しい。
それは本当だった。
ステージに立つと音が返ってきて、光が当たる。
それだけで、自然と笑みがこぼれてしまうくらいには。
でも同時に――
(やっぱり、怖い)
それがずっと離れなかった。
失敗したらどうなる?
音が外れたら?
声が届かなかったら?
―――みんなの期待を、裏切ったら?
ここまで積み上げてきたものが、
今日ひとつで全部『なかったこと』になる気がした。
それが、どうしようもなく........怖い。
会場に入る前に決意した思いが、
一瞬にして塗り替えられていく感覚だった。
* * *
リハーサルが終わり、控室に戻る途中。
有栖は、無意識に隣を見た。
零がいつもの穏やかな表情で歩いている。
けど――少しだけ、呼吸が浅かった。
ギターケースを持つ手に、ほんのわずかな力が入っている。
(……あ)
零も、同じだ。
天才っぽく見える時もある。
何でも冷静にやってるように見える時もある。
でも今は違った。
指先が、ほんの少しだけ震えている。
有栖は一瞬だけ言葉を失った。
(零でも、こうなるんだ)
安心、とは少し違う。
でも.....一人じゃないと思えた。
* * *
控室に戻ってしばらく、2人とも黙りこんだ。
遠くでスタッフさんの声がする。
現実の音が、やけに遠く感じた。
有栖はステージ方向を見たまま、ぽつりと呟く。
「ここまでやってきたのにさ」
「うん」
「今さら怖くなるの、なんでだろうね」
自分に向けたような言葉だった。
零は少しだけ視線を落として、
「それだけ本気ってことだよ」
と言った。
淡々としているのに、優しい声だ。
有栖は苦笑する。
「……なにそれ」
でも、その言葉で少しだけ呼吸が戻った。
胸の奥はまだざわついている。
怖さは消えていない。
でも――
(ああ、そっか)
怖いってことは。
ここに立ちたいってことだ。
逃げたいくらい大事で。
失いたくないくらい積み上げてきた。
だから怖い。
その事実が、自分を支えてくれた。
零はもう一度ギターケースを持ち直していた。
震えは、まだほんの少し残っている。
でもその手は、離れていない。
逃げていない。
有栖は小さく息を吸って、吐いた。
「……よし」
誰にでもなく呟く。
「やるしかないね」
零がこちらを見て、小さく頷く。
「うん」
その一言で、十分だった。
怖さは消えない。
でもそれでも――
ステージの上に立つ理由は、ちゃんとここにあった。