キミと歌姫はじめました!
そして――
セトリ通りに既存曲の演奏を一通り終え、
ステージに少しだけ静けさが戻った。
照明が落ち着いた色に変わったことに気づき、
有栖はマイクを握り直した。
胸の奥が、もう一度だけ強く鳴る。
でもさっきとは違う。
逃げたくなるような怖さじゃない。
これは――
(大事なやつだ)
ゆっくり、息を吸う。
隣を見る。
Noirが、ほんのわずかに頷いた。
それだけで、十分だった。
有栖は前を向く。
「……次の曲は」
ほんの少し、間を置く。
会場が静まる。
「今日のライブのために、私たちが作った新曲です」
ざわ、と空気が揺れる。
「さっきも言ったけど……」
言葉を探す。
でも今回は、迷わなかった。
「正直、めちゃくちゃ悩みました」
少し笑う。
「全然できなくて、どうしようってなって」
客席が静かに聞いている。
「でも――」
一歩、前に出る。
「それでも、どうしても『届けたい』って思ったんです」
その言葉は、あの日ノートに書いたものと同じだった。
「上手くやろうとか、すごく見せようとかじゃなくて」
息を吐く。
「ただ、『好き』を詰め込みました」
少しだけ、間。
そして。
「今の私たちの、全部です」
静寂。
でもそれは、怖い沈黙じゃない。
『待っている』空気。
有栖は小さく笑った。
「聴いてください」
隣を見る。
Noirがギターに手をかける。
「新曲――」
一拍。
そして、はっきりと。
「―― Liminal Code。」
その瞬間。
最初の一音が、静かに鳴った。
息を吸う。
ほんの一瞬、世界が静かになる。
そして――
「まだ名前のない夜にひとつだけ残った呼吸。
交わるたびに輪郭が滲む。ここはどこでもない場所」
最初のフレーズが、まっすぐに伸びた。
あの夜。
何度も詰まって、何度もやり直して、
それでも最後に残った言葉。
『好き』だけで選んだ音。
『好き』だけで紡いだ声。
Noirのギターがその下で柔らかく、でも確かに脈打っている。
「――怖くてもいい。震えててもいい。
それでもここで鳴らしたい。
君に届くその一瞬を、何度だって繋いでいくから――」
(あぁ……)
有栖の胸の奥で、何かが弾けた。
(楽しい……!!)
『2人で作った音』を、
『目の前の誰か』に届けている。
それが、どうしようもなく嬉しい。
体の奥から熱が込み上げる。
声が、勝手に前に出る。
止められない。
サビに入る直前。
一瞬、息を吸って――
Noirと、仮面越しに目が合う。
ほんのわずかに、頷いた。
(いくよ)
有栖はマイクを握りしめた。
「――まだいけるよね!!?」
声を張る。
ドーム全体に投げるように。
「もっと声、聞かせて!!」
一拍。
そして――
「――いくよ!せーのっ!」
客席へ、全力で放つ。
次の瞬間。
「「「――エルシー!!!!」」」
爆発みたいなレスポンスが返ってきた。
空気が震える。
床が揺れる。
それに押し返されるように、
Noirも声を重ねた。
「――まだ終われないだろ!!」
ギターを鳴らしながら、叫ぶ。
「――もっと来い!!!」
再び、有栖が叫ぶ。
「――せーのっ!!」
「「「「――エルシー!!!!」」」」
今度はさっきよりも大きい。
もう、会場全体が一つの塊みたいだった。
その中心で、2人は笑っていた。
「――いいね、そのまま!!」
有栖の声が弾ける。
そのままサビへ。
「――境界線のその先で、
名前のない光を見たんだ。
君と私で重ねた声が、今世界を塗り替えていく――!」
声が跳ね、音がぶつかる。
面から垂れたタッセルが揺れ、耳元で鈴が鳴った。
ギターと歌と歓声が、全部混ざった。
(これだ……)
有栖は確信した。
『すごい』って、こういうことなんだ。
完璧じゃなくてもいい。
上手くなくてもいい。
ただ――
今、この瞬間が、
全部、繋がっている。
隣で、Noirのギターが強く鳴った。
応えるように、有栖はさらに声を張る。
ステージの上で。
光の中で。
2人の『好き』が、
確かに、世界に響いていた。
一度、音がすっと引く。
あえて作った、数秒の余白だ。
その中で、有栖は軽く息を吸った。
そして――
「壁にぶつかるたびに分かる、違うままでいいこと。
同じじゃないからこそ続いていくリズムがある」
あの夜の空気が、そのまま音になる。
書いては消して。
悩んで、止まって。
それでも隣で笑っていた時間。
「――遠回りばっかでもいいよねって、
やっと言えたあの瞬間。
バラバラだった欠片たちが、ひとつの音に変わっていく――」
有栖の声が、少しだけ揺れる。
でもそれは不安じゃない。
思い出している揺れだった。
そして――
たん、たん。
有栖のハンドクラップが響く。
最初は一人。
でもすぐに――
たん、たんっ!
客席から音が返ってくる。
思わず、笑みがこぼれた。
(うわ……)
気づけば、ドーム全体が同じリズムで手を叩いている。
たん、たんっ
たん、たんっ
心臓みたいに、一定に。
「……いいね」
思わず声が漏れる。
楽しい。
楽しい。
楽しい……っ!!
そのリズムに乗せて、再び歌う。
「――君となら、このまま行ける気がした――」
ハンドクラップが続く。
その音が、合図になる。
次の瞬間――
ギターが、強く入った。
同時に。
低く、柔らかく。
でも芯のある声が重なる。
「「――迷っても止まっても、
その全部が僕らだって――」」
Noirの声。
ハモリパートだ。
有栖のメロディに、ぴたりと重なる。
その瞬間。
空気が、変わった。
「「――消えそうな夜の中で、
確かに見つけた『僕らのコード』――」」
2人の声が、ひとつになる。
重なって、溶けて、広がっていく。
客席が――沸いた。
「「「Noirーーっ!!」」」
歓声が一気に押し寄せる。
ハンドクラップはそのままに、
歓声と音が混ざり合う。
(……っ!!)
有栖の胸が、ぎゅっとなる。
(これ……やばい……)
自分たちで作った『好き』が。
今、目の前で、
何千人もの人に届いている。
その一瞬一瞬が、全部――
「「全部、ここにあるよ。ちゃんと――!!!!」」
サビへ繋ぐ。
ハンドクラップが、さらに大きくなり、
ドーム全体が、一つのリズムになる。
2人の音に、
観客の音が重なって――
『リミナルコード』は、
もう2人だけの曲じゃなくなっていた。
ハモリの余韻がふっとほどけて、音が一歩引く。
再び、有栖一人の声。
「――もしも今日届かなかったらって、何度も胸が締めつけられただろう。
期待の分だけ怖くなって、声が出なくなりそうだった――」
「――『すごく』なれなかったらどうしようって、
誰かの目ばっか気にして、私の声を無視してた」
一音一音が、まっすぐに落ちていく。
会場が静まる。
誰も邪魔しない。
ただ、聴いている。
(……でも)
ふっと笑った。
もう、さっきまでの自分じゃない。
「――でも今は、ちゃんと分かるよ。
この瞬間が、答えなんだって――」
顔を上げる。
光の中。
音の中。
人の気配の中。
(こんなに楽しいなんてさ)
胸が、いっぱいになる。
(最高じゃん)
ギターが、静かに強く入る。
零の音。
それに背中を押されるように――
有栖は、前に踏み出した。
「――君がいて。私がいて。
重なった声がここにある!!」
一気に、音が広がる。
クライマックス。
「――間違いも、遠回りも、全部連れてきてよかったんだ!!」
声を張る。
限界まで。
「――『好き』だけで繋いだこの音が、
今、確かに鳴ってるだろ!!!」
ギターが鳴り響く。
観客の手が鳴る。
全部が、ひとつになった。
ラストの一音へ向かって、音が収束していく。
Noirを見た。
仮面越しに、確かに視線が合う。
次の瞬間――
2人同時に、声を重ねた。
「「――欠けたままの僕らでいい。
重ねた声が『答え』になる。
一人じゃ辿り着けない場所へ、2人で今、越えていく――!!」」
最後のフレーズ。
全力で――
「「――これが僕らの『リミナルコード』っ!!」」
音が爆発した。
声が、光が、熱が――一気に放たれた。
一瞬の静寂。
そして――
ドームが、爆発した。
「「「わぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」
歓声。
拍手。
叫び声。
全部が一気に押し寄せる。
「っ……はぁ……っ」
呼吸が追いつかない。
胸が熱い。
頭がくらくらする。
それでも、有栖は口を開いた。
隣で零も同時にマイクを握る。
そして――
「「ありがとうございましたーーーっ!!!!」」
2人揃って、深く頭を下げた。
光の中で。
音の余韻の中で。
『LC_404』としての、
最初のライブが、確かに刻まれた。
セトリ通りに既存曲の演奏を一通り終え、
ステージに少しだけ静けさが戻った。
照明が落ち着いた色に変わったことに気づき、
有栖はマイクを握り直した。
胸の奥が、もう一度だけ強く鳴る。
でもさっきとは違う。
逃げたくなるような怖さじゃない。
これは――
(大事なやつだ)
ゆっくり、息を吸う。
隣を見る。
Noirが、ほんのわずかに頷いた。
それだけで、十分だった。
有栖は前を向く。
「……次の曲は」
ほんの少し、間を置く。
会場が静まる。
「今日のライブのために、私たちが作った新曲です」
ざわ、と空気が揺れる。
「さっきも言ったけど……」
言葉を探す。
でも今回は、迷わなかった。
「正直、めちゃくちゃ悩みました」
少し笑う。
「全然できなくて、どうしようってなって」
客席が静かに聞いている。
「でも――」
一歩、前に出る。
「それでも、どうしても『届けたい』って思ったんです」
その言葉は、あの日ノートに書いたものと同じだった。
「上手くやろうとか、すごく見せようとかじゃなくて」
息を吐く。
「ただ、『好き』を詰め込みました」
少しだけ、間。
そして。
「今の私たちの、全部です」
静寂。
でもそれは、怖い沈黙じゃない。
『待っている』空気。
有栖は小さく笑った。
「聴いてください」
隣を見る。
Noirがギターに手をかける。
「新曲――」
一拍。
そして、はっきりと。
「―― Liminal Code。」
その瞬間。
最初の一音が、静かに鳴った。
息を吸う。
ほんの一瞬、世界が静かになる。
そして――
「まだ名前のない夜にひとつだけ残った呼吸。
交わるたびに輪郭が滲む。ここはどこでもない場所」
最初のフレーズが、まっすぐに伸びた。
あの夜。
何度も詰まって、何度もやり直して、
それでも最後に残った言葉。
『好き』だけで選んだ音。
『好き』だけで紡いだ声。
Noirのギターがその下で柔らかく、でも確かに脈打っている。
「――怖くてもいい。震えててもいい。
それでもここで鳴らしたい。
君に届くその一瞬を、何度だって繋いでいくから――」
(あぁ……)
有栖の胸の奥で、何かが弾けた。
(楽しい……!!)
『2人で作った音』を、
『目の前の誰か』に届けている。
それが、どうしようもなく嬉しい。
体の奥から熱が込み上げる。
声が、勝手に前に出る。
止められない。
サビに入る直前。
一瞬、息を吸って――
Noirと、仮面越しに目が合う。
ほんのわずかに、頷いた。
(いくよ)
有栖はマイクを握りしめた。
「――まだいけるよね!!?」
声を張る。
ドーム全体に投げるように。
「もっと声、聞かせて!!」
一拍。
そして――
「――いくよ!せーのっ!」
客席へ、全力で放つ。
次の瞬間。
「「「――エルシー!!!!」」」
爆発みたいなレスポンスが返ってきた。
空気が震える。
床が揺れる。
それに押し返されるように、
Noirも声を重ねた。
「――まだ終われないだろ!!」
ギターを鳴らしながら、叫ぶ。
「――もっと来い!!!」
再び、有栖が叫ぶ。
「――せーのっ!!」
「「「「――エルシー!!!!」」」」
今度はさっきよりも大きい。
もう、会場全体が一つの塊みたいだった。
その中心で、2人は笑っていた。
「――いいね、そのまま!!」
有栖の声が弾ける。
そのままサビへ。
「――境界線のその先で、
名前のない光を見たんだ。
君と私で重ねた声が、今世界を塗り替えていく――!」
声が跳ね、音がぶつかる。
面から垂れたタッセルが揺れ、耳元で鈴が鳴った。
ギターと歌と歓声が、全部混ざった。
(これだ……)
有栖は確信した。
『すごい』って、こういうことなんだ。
完璧じゃなくてもいい。
上手くなくてもいい。
ただ――
今、この瞬間が、
全部、繋がっている。
隣で、Noirのギターが強く鳴った。
応えるように、有栖はさらに声を張る。
ステージの上で。
光の中で。
2人の『好き』が、
確かに、世界に響いていた。
一度、音がすっと引く。
あえて作った、数秒の余白だ。
その中で、有栖は軽く息を吸った。
そして――
「壁にぶつかるたびに分かる、違うままでいいこと。
同じじゃないからこそ続いていくリズムがある」
あの夜の空気が、そのまま音になる。
書いては消して。
悩んで、止まって。
それでも隣で笑っていた時間。
「――遠回りばっかでもいいよねって、
やっと言えたあの瞬間。
バラバラだった欠片たちが、ひとつの音に変わっていく――」
有栖の声が、少しだけ揺れる。
でもそれは不安じゃない。
思い出している揺れだった。
そして――
たん、たん。
有栖のハンドクラップが響く。
最初は一人。
でもすぐに――
たん、たんっ!
客席から音が返ってくる。
思わず、笑みがこぼれた。
(うわ……)
気づけば、ドーム全体が同じリズムで手を叩いている。
たん、たんっ
たん、たんっ
心臓みたいに、一定に。
「……いいね」
思わず声が漏れる。
楽しい。
楽しい。
楽しい……っ!!
そのリズムに乗せて、再び歌う。
「――君となら、このまま行ける気がした――」
ハンドクラップが続く。
その音が、合図になる。
次の瞬間――
ギターが、強く入った。
同時に。
低く、柔らかく。
でも芯のある声が重なる。
「「――迷っても止まっても、
その全部が僕らだって――」」
Noirの声。
ハモリパートだ。
有栖のメロディに、ぴたりと重なる。
その瞬間。
空気が、変わった。
「「――消えそうな夜の中で、
確かに見つけた『僕らのコード』――」」
2人の声が、ひとつになる。
重なって、溶けて、広がっていく。
客席が――沸いた。
「「「Noirーーっ!!」」」
歓声が一気に押し寄せる。
ハンドクラップはそのままに、
歓声と音が混ざり合う。
(……っ!!)
有栖の胸が、ぎゅっとなる。
(これ……やばい……)
自分たちで作った『好き』が。
今、目の前で、
何千人もの人に届いている。
その一瞬一瞬が、全部――
「「全部、ここにあるよ。ちゃんと――!!!!」」
サビへ繋ぐ。
ハンドクラップが、さらに大きくなり、
ドーム全体が、一つのリズムになる。
2人の音に、
観客の音が重なって――
『リミナルコード』は、
もう2人だけの曲じゃなくなっていた。
ハモリの余韻がふっとほどけて、音が一歩引く。
再び、有栖一人の声。
「――もしも今日届かなかったらって、何度も胸が締めつけられただろう。
期待の分だけ怖くなって、声が出なくなりそうだった――」
「――『すごく』なれなかったらどうしようって、
誰かの目ばっか気にして、私の声を無視してた」
一音一音が、まっすぐに落ちていく。
会場が静まる。
誰も邪魔しない。
ただ、聴いている。
(……でも)
ふっと笑った。
もう、さっきまでの自分じゃない。
「――でも今は、ちゃんと分かるよ。
この瞬間が、答えなんだって――」
顔を上げる。
光の中。
音の中。
人の気配の中。
(こんなに楽しいなんてさ)
胸が、いっぱいになる。
(最高じゃん)
ギターが、静かに強く入る。
零の音。
それに背中を押されるように――
有栖は、前に踏み出した。
「――君がいて。私がいて。
重なった声がここにある!!」
一気に、音が広がる。
クライマックス。
「――間違いも、遠回りも、全部連れてきてよかったんだ!!」
声を張る。
限界まで。
「――『好き』だけで繋いだこの音が、
今、確かに鳴ってるだろ!!!」
ギターが鳴り響く。
観客の手が鳴る。
全部が、ひとつになった。
ラストの一音へ向かって、音が収束していく。
Noirを見た。
仮面越しに、確かに視線が合う。
次の瞬間――
2人同時に、声を重ねた。
「「――欠けたままの僕らでいい。
重ねた声が『答え』になる。
一人じゃ辿り着けない場所へ、2人で今、越えていく――!!」」
最後のフレーズ。
全力で――
「「――これが僕らの『リミナルコード』っ!!」」
音が爆発した。
声が、光が、熱が――一気に放たれた。
一瞬の静寂。
そして――
ドームが、爆発した。
「「「わぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」
歓声。
拍手。
叫び声。
全部が一気に押し寄せる。
「っ……はぁ……っ」
呼吸が追いつかない。
胸が熱い。
頭がくらくらする。
それでも、有栖は口を開いた。
隣で零も同時にマイクを握る。
そして――
「「ありがとうございましたーーーっ!!!!」」
2人揃って、深く頭を下げた。
光の中で。
音の余韻の中で。
『LC_404』としての、
最初のライブが、確かに刻まれた。