キミと歌姫はじめました!

翌日。
「おっはよー!!」
校門をくぐった瞬間、有栖の明るい声が響く。
「おはよ、有栖!」
「昨日の課題やった?」
「やったやった!ていうか聞いてよ〜!」
次々とクラスメイトに声をかけては、楽しそうに笑い合う。
その中心にいるのが、七瀬有栖だった。
くるくると表情が変わって、誰とでもすぐに打ち解ける。
まさに太陽みたいな存在。
その少し後ろを、成早零がゆっくりと歩く。
「おはよう、成早くん」
「おはよう」
声をかけられれば柔らかく返すが、自分から前に出ることはない。
有栖の隣で、控えめに微笑んでいる。
――そんな、ごく普通の高校生の2人。
まさかこの二人が、あの有名シンガーである「LC_404」だなんて、誰も思っていない。
* * *
一時間目の授業が終わる。
チャイムと同時に、教室は一気にざわめき始めた。
「有栖ー、次移動教室だよね!」
「うん、一緒に行こー!」
クラスメイトとそんな会話をしながら立ち上がる。
すれ違いざまに立ち止まった零が、小さく呟いた。
「昨日の続きだけど――どうする?」
有栖は一瞬だけ目線を動かす。
周りに誰も聞いていないことを確認してから、小さく口を動かした。
「バラード寄り……かな」
「ライブ向けなら、もう少しテンポ上げてもいいかも」
「えー、でも最初はちゃんと聴かせたいじゃん」
一見すると、ただの雑談。
でもその中身は、完全に曲作りの話だった。
「じゃあAメロは抑えめで、サビで一気に上げる?」
「それいいかも。私、サビでガツンといきたい」
「キーどうする?」
「ちょい高めかな。」
「了解。また昼休み、屋上で。」
ほんの少しの会話。
それだけ言葉を交わして、何事もなかったかのように歩き出す。
「有栖、早くー!」
「今行くー!」
手を振る友達の元へ、小走りで向かう有栖。
その後ろ姿を見ながら、零は小さく息を吐いた。
(……やっぱりすごいな)
あの短時間で、もう方向性が見えている。
有栖の中には、ちゃんと歌がある。
自分のやるべきことは、それを形にするだけだ。* * *
二時間目と三時間目の間の休み時間。
有栖は机に突っ伏したまま、小声で言う。
「ねえ、歌詞なんだけどさ」
「うん」
「やっぱライブ意識したほうがいいよね」
「意識?」
「なんていうか……一緒に盛り上がれる感じ?」
「コール&レスポンス的な?」
「それそれ!」
でも、と有栖は少しだけ眉を寄せる。
「でもそれだけだと、なんか違う気もするんだよね」
「……うん」
零も頷く。
「確かに、有栖っぽくないね。」
「でしょ?」
くすっと笑う。
「ちゃんと私たちの歌にしたい」
その一言に、零は少しだけ目を細めた。
「じゃあ、無理に寄せなくていいんじゃない」
「え?」
「ライブだからって、変える必要ないよ」
静かに、でもはっきりと。
「いつも通り、有栖が歌いたいものを歌えばいい」
有栖は一瞬きょとんとして――
「……そっか」
ふっと肩の力を抜いた。
「なんか変に考えすぎてたかも」
「考えるのはいいことだけどね」
「うん。でも」
にっと笑う。
「私らしくいく!」
その言葉に、零も小さく笑った。
チャイムが鳴り、また次の授業が始まる。
ノートを開いて、ペンを持って。
周りと同じように、普通の生徒として過ごす時間。
でもその裏で、確実に進んでいる。
誰にも知られないまま。
2人だけの、新しい歌が。
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