キミと歌姫はじめました!
さらに――
『2人』
『相棒』
『隣』
自分と零を、少しだけ重ねた言葉も書いてみる。
でも。
「……なんか違う」
小さく呟いて、ペンを止めた。
どの言葉も、それっぽくはなる。
繋げれば、ちゃんと歌詞の形にはなる。
でも――
(全部、どっかで聞いたことある感じ……)
心に引っかからない。
響かない。
ただ並べただけの、薄い言葉。
「うーん……」
ぐしゃっと前髪をかきあげる。
ノートには、書いては消した跡がいくつも残っていた。
綺麗じゃない。
まとまりもない。
なのに、しっくりもこない。
(なんでだろ……)
ライブで歌う曲。
ちゃんと届けたいのに。
そのちゃんとが、分からない。
ふと、斜め後ろに視線を向ける。
零の席。
いつもなら真面目にノートを取っているはずのその姿が――
今日は違った。
シャーペンのノック部分を顎に当てて、少しだけ顔をしかめている。
(……あれ)
一瞬、目を疑う。
零があんな顔をするのは、かなり珍しい。
(零も……詰まってる?)
音楽のことになると、どこか余裕があるように見える零。
そんな零が、はっきりと悩んでいる表情をしている。
それを見た瞬間。
胸の奥が、少しだけざわついた。
(やば……)
自分だけじゃない。
でも、それは安心じゃなくて。
むしろ――
(ほんとに間に合わないかも)
そんな不安が、現実味を帯びてくる。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り、古文の先生が教室に入ってくる。
「はい、じゃあ教科書開いてー」
ページをめくる音。
いつも通り始まる授業。
でも有栖の頭の中には、文章なんて一つも入ってこない。
ノートの端に、もう一度ペンを走らせる。
『届けたい』
その一言を書いて、止まる。
(誰に?)
答えが出ない。
(何を?)
言葉が浮かばない。
カツカツというチョークの音以外響かない、静かな教室の中で。
有栖の心だけが、ぐちゃぐちゃに揺れていた。
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