キミと歌姫はじめました!
* * *
「じゃあねー!また明日!」
「ばいばーい!」
教室を出る直前まで、いつも通り明るく手を振る。
でも一歩廊下に出た瞬間、有栖は小さく息を吐いた。
「……はぁ」
頭の中が、ずっとぐちゃぐちゃしたまま。
考えても考えても、答えが出ない。
(全然ダメだ……)
そんなことを思いながら歩いていると――
「行こ」
壁にもたれて待っていた零が、顔を上げた。
有栖は少しだけ笑ってみせる。
「待った?ごめんね、掃除長引いちゃって。」
「全然。」
短いやり取り。
それだけで、なんとなく空気が落ち着く。
「行こっか」
「うん」
並んで歩き出す。
校舎を出て、オレンジ色に染まりかけた道を、2人で歩いた。
向かう先は、公民館。
防音室が身近な場所にないため、
撮影のときはよく、そこのホールを使わせてもらっている。
今日はそこで、ライブ開催の発表配信をする予定だ。
しばらく無言のまま歩いて――
「……ねえ」
先に口を開いたのは、有栖だった。
「うん」
「曲、どう?」
遠回しな聞き方。
でも、意味はちゃんと伝わる。
零は少しだけ視線を前に向けたまま答えた。
「正直、微妙」
「……だよね、私も。」
苦笑が漏れる。
「なんか、全部それっぽくはなるんだけどさぁ....」
「.........決め手がない?」
「そうそれ!」
思わず声が少し大きくなる。
「なんかこう、これだ!ってならないんだよね」
「うん」
零も小さく頷く。
「どこかで聞いたことある感じになるよね」
「そうそうそう!!ほんとそれ!」
有栖は思わず笑った。
「っ、あはは、同じこと思ってたんだけど」
「っ、ふ。すごいね、僕達。」
少しだけ、空気が軽くなる。
でも――
「……間に合うかな」
ぽつりと漏れた言葉。
足元を見ながら、有栖は小さく続ける。
「このままじゃさ、普通の曲しかできなくない?」
『最強』なんて言われてるのに。
期待されてるのに。
それに応えられなかったら――
「別にいいんじゃない」
「……え?」
思わず顔を上げる。零はいつも通りの顔で、あっさり言った。
「普通でも」
「いやいやいやいや、よくないでしょ!?」
「なんで」
「だってライブだよ!?初だよ!?」
「うん」
「絶対すごいって思われたいじゃん!」
「思われたいの?」
「思われたいでしょ普通!!」
有栖は勢いよく言い切ってから、はっとした。
少しだけ間があく。
零は少しだけ考えるようにしてから、口を開いた。
「じゃあさ」
「ん?」
「すごい.....って、何?」
その問いに、有栖は言葉を詰まらせた。
「え……」
すごいって、何?
歌が上手いこと?
ライブが盛り上がること?
曲で感動すること?
「……わかんない」
正直にそう言うと、零は小さく頷いた。
「僕も」
「え........零も?」
「うん」
少しだけ困ったように笑う。
「だから詰まってる」
その言葉に、有栖は一瞬きょとんとして――
ふっと笑った。
「なんか、安心した」
「安心するところ?」
「うん。零でも詰まるんだなって」
「っ、ふふ。僕のことなんだと思ってるの」
でも、その声はどこか柔らかい。
少しだけ沈黙が流れる。
夕焼けの中、並んで歩く。
「……でもさ」
有栖が前を見たまま言う。
「なんか、こう……ちゃんと届けたいんだよね」
「うん」
「せっかく画面越しじゃなくて、
目の前にリスナーの人がいるわけだし。」
その言葉に、零は少しだけ目を細めた。
「そのままでいいんじゃない」
「え?」
「届けたいって思ってるなら、それで。」
シンプルな言葉。
でも、すとんと胸に落ちる。
「……そっか」
小さく頷く。
難しく考えすぎてたのかもしれない。
「とりあえずさ」
有栖は前を向いて、少しだけ笑った。
「今日の配信、ちゃんとやろう」
「うん」
「逃げられないようにしないと」
「もう逃げ場ないけどね」
「それもそうだけど」
2人で軽く笑う。
まだ曲はできていない。
答えも見えていない。
でも――
隣には、信頼できるパートナーがちゃんといる。
―――いてくれる。
それだけで、少しだけ前に進める気がした。
「じゃあねー!また明日!」
「ばいばーい!」
教室を出る直前まで、いつも通り明るく手を振る。
でも一歩廊下に出た瞬間、有栖は小さく息を吐いた。
「……はぁ」
頭の中が、ずっとぐちゃぐちゃしたまま。
考えても考えても、答えが出ない。
(全然ダメだ……)
そんなことを思いながら歩いていると――
「行こ」
壁にもたれて待っていた零が、顔を上げた。
有栖は少しだけ笑ってみせる。
「待った?ごめんね、掃除長引いちゃって。」
「全然。」
短いやり取り。
それだけで、なんとなく空気が落ち着く。
「行こっか」
「うん」
並んで歩き出す。
校舎を出て、オレンジ色に染まりかけた道を、2人で歩いた。
向かう先は、公民館。
防音室が身近な場所にないため、
撮影のときはよく、そこのホールを使わせてもらっている。
今日はそこで、ライブ開催の発表配信をする予定だ。
しばらく無言のまま歩いて――
「……ねえ」
先に口を開いたのは、有栖だった。
「うん」
「曲、どう?」
遠回しな聞き方。
でも、意味はちゃんと伝わる。
零は少しだけ視線を前に向けたまま答えた。
「正直、微妙」
「……だよね、私も。」
苦笑が漏れる。
「なんか、全部それっぽくはなるんだけどさぁ....」
「.........決め手がない?」
「そうそれ!」
思わず声が少し大きくなる。
「なんかこう、これだ!ってならないんだよね」
「うん」
零も小さく頷く。
「どこかで聞いたことある感じになるよね」
「そうそうそう!!ほんとそれ!」
有栖は思わず笑った。
「っ、あはは、同じこと思ってたんだけど」
「っ、ふ。すごいね、僕達。」
少しだけ、空気が軽くなる。
でも――
「……間に合うかな」
ぽつりと漏れた言葉。
足元を見ながら、有栖は小さく続ける。
「このままじゃさ、普通の曲しかできなくない?」
『最強』なんて言われてるのに。
期待されてるのに。
それに応えられなかったら――
「別にいいんじゃない」
「……え?」
思わず顔を上げる。零はいつも通りの顔で、あっさり言った。
「普通でも」
「いやいやいやいや、よくないでしょ!?」
「なんで」
「だってライブだよ!?初だよ!?」
「うん」
「絶対すごいって思われたいじゃん!」
「思われたいの?」
「思われたいでしょ普通!!」
有栖は勢いよく言い切ってから、はっとした。
少しだけ間があく。
零は少しだけ考えるようにしてから、口を開いた。
「じゃあさ」
「ん?」
「すごい.....って、何?」
その問いに、有栖は言葉を詰まらせた。
「え……」
すごいって、何?
歌が上手いこと?
ライブが盛り上がること?
曲で感動すること?
「……わかんない」
正直にそう言うと、零は小さく頷いた。
「僕も」
「え........零も?」
「うん」
少しだけ困ったように笑う。
「だから詰まってる」
その言葉に、有栖は一瞬きょとんとして――
ふっと笑った。
「なんか、安心した」
「安心するところ?」
「うん。零でも詰まるんだなって」
「っ、ふふ。僕のことなんだと思ってるの」
でも、その声はどこか柔らかい。
少しだけ沈黙が流れる。
夕焼けの中、並んで歩く。
「……でもさ」
有栖が前を見たまま言う。
「なんか、こう……ちゃんと届けたいんだよね」
「うん」
「せっかく画面越しじゃなくて、
目の前にリスナーの人がいるわけだし。」
その言葉に、零は少しだけ目を細めた。
「そのままでいいんじゃない」
「え?」
「届けたいって思ってるなら、それで。」
シンプルな言葉。
でも、すとんと胸に落ちる。
「……そっか」
小さく頷く。
難しく考えすぎてたのかもしれない。
「とりあえずさ」
有栖は前を向いて、少しだけ笑った。
「今日の配信、ちゃんとやろう」
「うん」
「逃げられないようにしないと」
「もう逃げ場ないけどね」
「それもそうだけど」
2人で軽く笑う。
まだ曲はできていない。
答えも見えていない。
でも――
隣には、信頼できるパートナーがちゃんといる。
―――いてくれる。
それだけで、少しだけ前に進める気がした。