幼なじみの救命士は、再会した初恋の私を今度こそ逃がさない 〜拒否権なしの溺愛同居〜
番外編 ミスターコンの溺愛お嬢さま
「池田くんっ!!今年こそミスターコン出て!!」
放課後の教室に、女子たちの悲鳴みたいな声が響いた。
夏休みも終わり、文化祭準備が本格的になった九月初旬。
遥希のクラス二年A組では、執事喫茶の準備が進んでいた。
器用さを見込まれた遥希は、裏方リーダーとして指示を出しながら、看板に色を塗っていたときだった。
「……去年も言うたけど、俺そういうん苦手やねん」
遥希は筆を持ったまま、露骨に眉間へ皺を寄せる。
「でもミスターコンは池田くんしかいないの!」
「ミスコンには花島さんも出るんだよ!?」
「ねっ、お願いっ!」
文化祭実行委員の女子たちは、負けじと引き下がらない。
拝みポーズで遥希に訴える。
「今年出たら、来年はナシになるからっ、ね?ね?二年生の今がチャンスだよ!」
遥希は深いため息をついて、「考えとくわ」とだけ言って、女子たちを散らした。
「すげーな、遥希!あれ自薦がほとんどなのに」
「俺も『ミスターコン出て』って言われてみてー!」
「しかもあの花島もだろ?羨ましい」
男子たちの冷やかしに、遥希は一瞥する。
「俺は、ミスターコンとか、そういうん興味ないねん」
(はぁ……ほんま、面倒くさいわ……)
遥希は首筋をさすりながら、作業に戻った。
***
その日の夕方。
「ただいま」
「はる兄ー!おかえりっ」
「あれ?めい、来てたん?」
「うんっ」
パタパタと駆け足で出迎えた芽依子に、ぽんぽんと頭を撫でる。
奥から、文化祭の話題で盛り上がる芙美の声も聞こえてきたので、事情を推察するのは簡単だ。
去年は風邪を引いて来られなかった芽依子が、遥希の腕に引っ付く。
「文化祭、絶対遊びに行くねっ。はる兄のクラスは何するの?」
「執事喫茶やで」
「はる兄、執事の格好するの?!」
「俺はやらへんよ、裏方で調理係」
「えーっ!!絶対はる兄の執事かっこいいよ!!」
ひっつき虫みたいな芽依子が、キラキラした顔で見上げてくる。
ダイニングで食事中の清子と芙美の、ニヤニヤした視線が突き刺さった。
「めい……嬉しいねんけど、執事の格好は恥ずかしいねん」
「でも絶対似合うよっ!……はる兄の執事……見たかったなぁ……」
芽依子に垂れ下がったうさぎ耳の幻覚が見える。
遥希は、しょんぼりした彼女の姿にも弱い。
「……めい、見たいん?」
「うん……だって絶対カッコいいもん」
「……………………あー……もう、しゃあないな」
「ほんとっ?!やったぁっ!はる兄大好きっ!!」
勢いよく抱きつかれて、遥希の思考が一瞬止まる。
(……あかん)
(そんな顔して、大好きとか簡単に言うなや)
(勘違いするやろ)
「遥希、あんたチョロすぎやろ」
「ふふっ、清ちゃん。そこがはる君の良いところよ」
「…………うっさいなぁ」
(しょうがないやん……可愛いんやし)
(ほんま、俺はめいに弱い)
(……執事服も着るつもりなんかなかったのに)
うるさい外野の声を背に、遥希は無邪気すぎる幼なじみの頭をこれでもかと撫でた。