幼なじみの救命士は、再会した初恋の私を今度こそ逃がさない 〜拒否権なしの溺愛同居〜
秋晴れの爽やかな日曜日。
朝から文化祭の来場者や生徒の呼び声で賑わっている。
  
「池田くん来たっ!!」
 
遥希のクラスでは、教室の空気が一気にざわついた。
黒の燕尾服に白い手袋。
いつも少し無造作な髪も整えられていて、額にかかる前髪が少しだけ大人っぽい。

「なぁ……この手袋ちょっと小さいんやけど……ってみんな、どうしたん?」
「女子の気持ちがわかるわ……遥希くそイケメンじゃねぇか!」
「池田くんっ、後で写真撮らせてほしいっ!」
「ずるいっ!!あたしもいいかな?!」
「黙れ女子ども!遥希は俺らと撮るんだよっ」

普段は一致団結するクラスメイトのくだらない争いに、遥希は半目で眺める。

「はぁ……早くめい、来いひんかなぁ……」

可愛い幼なじみの姿を思い浮かべながら、本来の担当である調理に取りかかった。

「2-Aの執事喫茶やばいよね!」
「池田先輩でしょ?!」
「遥希くんの執事姿、マジで推せる~」

噂が噂を呼んだのと、クラスメイトの呼び込みのお陰もあり、執事喫茶は繁盛している。
裏方に徹していた遥希も、人手が足りないので仕方なく表に立って給仕をしていた。 
 
「うそ……」

遊びに来た芽依子は、お目当ての人物を見つけてぽかんと口を開けた。
 
(かっこいい……)
(え、待って、ほんとに、はる兄?)
 
「めい?」
 
低い声がして顔を上げると、いつもの優しい笑顔とぶつかる。
 
「口開いてんで」
「っ!!」

クラス中の視線が出入口に集中する。
 
「池田くんの彼女……?」
「え、違うよね?」
「でもめっちゃ距離近くない?」

そんな外野の声を聞いていない遥希と、聞こえていない芽依子。 
格好良すぎて声にならない芽依子は、ただただ遥希を見つめることしか出来ない。 
  
「そんな見つめられたら恥ずかしいんやけど」
「だって……めちゃくちゃ格好いいんだもんっ」  

力一杯褒めてくるのが、嬉しくもあり気恥ずかしい。
隠すように遥希は、芽依子の肩を引き寄せた。
 
「ていうか、中入ろ」
「え?歩けるよ?」
「知ってる。……けど、ここ人多いから」
    
ふと、いつもとは違う甘い香りに、芽依子はすり寄る。

「はる兄、おいしい匂いがする」
「あぁ、さっきまでクッキー焼いてたからな。ん、お手をどうぞ芽依子お嬢さま」 

芽依子の手を取り、微笑みながらエスコートする遥希。
芽依子も嬉しくて、ぎゅっと握り返した。 
 
「ねぇ……あの子誰?」
「妹……じゃないよね?」
「池田くん、あんな顔するの初めて見た……」
 
普段は見せないその姿に、悲鳴と黄色い歓声が地鳴りのようにこだました。

案内された席に座り、メニューを見るも、遥希が取り上げた。

「芽依子お嬢さまには、私がとっておきをご用意いたしますので、少々お待ちくださいませ」
「そうなの?」
「ええ。それとあともう少しで休憩なので、一緒に回りましょう」  
「はーい!」

遥希は執事らしくお辞儀をして、裏方に歩いていく。
周りの客が遥希の姿に見惚れていたことに気付き、芽依子は心の中で何度も頷いた。

(やっぱり、はる兄は人気者なんだなぁ)

裏手に戻った遥希は、次々と注文を捌いていく。
 
「俺、これ出し終えたら休憩行くし」
「おぅ!てか、遥希、あのかわいい子誰だよ!」
「変な目で見るな。めいが困るやろ」
「は?!こわっ……え?お前そんなかんじ?」

肩を組まれた腕を払いのけながら、悪態を付くクラスメイトに、凄みのある笑顔を向ける。

「あの子は俺の大事な子やねん。下世話な妄想すんなや」
「…………はーい……」        

芽依子を含めた数人の給仕を終えて、出入口で待っているところへ遥希がやってきた。         

「めい、お待たせ!一人で来たん?」
「ううん、お母さんとはるママと一緒だよ。二人は体育館の演劇部見てくるって」
「めいは見んでよかったん?」
「うん、早くはる兄に会いたかったから」
「そっか、ありがと」

手を差し出すと、芽依子は当たり前に握り返してくる。
それが遥希の胸の奥を、やわらかな熱で満たしていく。
 
二人はそのまま、賑わう廊下を歩いていく。
執事姿だからか、いつも以上に視線を感じる。
けれど隣で芽依子が笑っているだけで、不思議と気にならなかった。
  
「どっか行きたいとこある?」
「んー……あ、さっきおばけ屋敷やってるとこ見た!」
「あぁ、三年の教室やな」
「そこ行ってみたい!」 
「え……めい、怖がりやのに大丈夫?」
「うん!お昼やし、はる兄もいるから!」

暫く考えたが、泣く姿しか想像できない。
   
「とりあえず、あそこは後回しで、なんか食べへん?……俺、腹へった」
「じゃあ、たこ焼き食べたい」
「かしこまりました、お嬢さま」  

おばけ屋敷は結局、行かず。
来年、遥希のクラスの出し物になって、芽依子が腰を抜かすことになるのは、また別のおはなし。
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