幼なじみの救命士は、再会した初恋の私を今度こそ逃がさない 〜拒否権なしの溺愛同居〜
「♪~♪~」
「はる兄、何それ?」

蝉が忙しなく鳴いている8月のとある日。
芽依子は、ひょっこりと廊下に顔を出す。
芽依子は中学に入り、急に難しくなった数学に苦戦していた。
夏休みの宿題で遥希に教えてもらっていたところ、宅配便が来たので中断していた。

小さな段ボールを片手に、遥希が鼻歌交じりで戻ってくる。

「俺がずっと欲しかったやつ。……めい、見たい?」
「うんっ」

珍しくテンションが高い遥希の様子から、中身を想像しつつ段ボールを見る。
中から出てきたのは、見慣れない色をした卵焼き器のようなもの。

「なにこれ?」
「銅板製の卵焼き器やねん。……めっちゃええなぁ~」     
「いいの?」
「見てみ、ここ!この錫引き、手作業で焼き付けてんねんっ。職人技が光ってるやろっ?」
「すずひき??」
「しかも銅板やから、ムラなく均一に熱が伝わるから、焼きムラや焦げつきにくいねんっ」
「・・・・・・はる兄、好きだよね。そういうの」
 
いつもより饒舌に解説する遥希に、芽依子はある記憶がよみがえる。
池田宅のキッチンには、プロが使うような調理器具がいくつか置いてある。
それは全て料理の得意な遥希が、コツコツと集めているのだ。          
この前は、無水調理鍋だった・・・・・・とか。
でもそれを使って作った野菜カレーは絶品だったのだ。

「ちょっと今から作ろかな。めい、食べてみいひん?」
「やったぁ」
   
二人はキッチンに移動し、さっそく卵焼き器片手に、取扱説明書を読む。
念入りに油ならしをした後、遥希がボウルに入れた卵を手際よくかき混ぜる。   

「はる兄、卵焼き甘い派?」
「……めい」
「なに?」
「それ結婚前に確認するやつや」
「そうなの?」
「・・・・・・まぁ、ええわ。俺は甘いけどちょっと出汁もいれたい派」

清子が関西出身なので、家庭の味は自然と出汁文化が根付いている。
遥希自身も、関西寄りの少し薄味が好みなのだ。

「はる兄の作るご飯、おいしいから、つい食べ過ぎる」
「お褒めにあずかり、光栄ですよ」

今回の主役を火にかけ、タイミングを見て、遥希は液卵を流し入れる。 
食欲をそそる芳醇な香りと、焼けていく匂いに、芽依子はうっとりする。
     
「わっ・・・・・・まじかっ。思ったより火の通り早いわ」

苦戦している声とは裏腹に、遥希は器用にひっくり返して、皿にのせる。 

「一応、完成」
「えー!すごー!」 
「やっぱり、使い慣れてへんから形崩れたわ」
「・・・・・・これで?」

いつもと同じだけどなぁと、芽依子は首をひねる。
まじまじと出来上がりを見つめ、ぽそっと呟く。
  
「あたしも、はる兄に作ってあげたいな」
 
いつも作ってもらうばかりだから、たまには遥希を喜ばせたかった。
   
「ほんま?めいもこれ使ってみる?」

遥希は手入れしている卵焼き器を指差す。

「えっ・・・・・・いやいやっはる兄の大事なものだし!それに・・・・・・あたし料理・・・・・・うまくない」
「うん、知ってる」
「即答っ!?」

かぶせ気味の返事に、眉根を寄せてむくれる芽依子。
遥希は口に手を当てつつ、笑いながら謝る。

「知ってるけど食べたいねん」
「それフォローになってないっ」 
「明日、文化祭準備で学校行くねんけど、昼は弁当にしよ思ってたん」
「めいの作った卵焼き、食べたいなぁー」
「めーいー?」
「わかった!それなら、はる兄、作り方教えて!」
「じゃ、その前にさっきの続きで数学片付けてからやな」
「えぇー・・・・・・はぁーい」

芽依子は、閉じていた教科書とノートを渋々開いた。 
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