経済学部一の人気者が同じ学部の大人しい女の子に一目惚れした理由│Quiet Strength×Soft Strength

沢山の奇跡の上

 あの言葉が伝わるとは思わなかった。

 シャワーを先に浴びて、司の服を借りて、緊張しながらもふわふわ夢見心地で綾音は思った。司の服は、思っていた以上に大きくて安心する。でもやっぱりどきどきする。恥ずかしい。嬉しい。そんな感情が沢山溢れて綾音は一人で百面相をしていた。

 そのまま何度も何度もさっきのやり取りを思い出す。司が答えてくれた言葉に驚いた。そういう意味で言ったけれど、そう受け取ってくれるとは思っていなかった。きっと、他の見えやすい理由と受け取ると思っていた。ハッピーエンドが嬉しくて。楽しい気分だから。感動したの。そんな風に受け取られると思っていたし、それでも良かった。ただ、自分の気持ちを渡せれば満足と思って口にした。

 その気持ちごと、司は全部受け取ってくれた。自分がどれだけ一緒にいることを心地良いと思っているか理解してくれて、それを喜んでくれた。

 嬉しいな…。

 そう思って、じんわりと幸福感を味わう。そんなやり取りをできる人が、この世界に沢山いないことは分かっている。司とだって初対面では無理だったことも。その彼と一緒に過ごして、そういう事ができた奇跡に胸が一杯になった。それは目で見た他人の人生よりもずっと強烈で、震える程嬉しい。思えばずっと自分の拙い甘えに司は気付いて拾い上げ、凄く喜んでくれている気がする。気のせいかな。自意識過剰かも。でも、でもでも、そうなら舞ちゃんが言っていたように嬉しいって伝えたいな。

「綾ちゃん」

 不意に、そんな声が耳元で聞こえてきてびっくりした。振り返ると司がくっつかんばかりの距離で笑っている。気付かなかった。

「何か考え事?」

 そう聞かれて、今、それを伝えようか迷った。けれど司がくれたような奇跡はこの先も沢山ありそうな気がして。

 口にしてしまえば、二人ともそれを意識してしまいそうな気がして、そうじゃなくて、そっと持っているだけで素敵なものだから。

「…ううん」

 と、首を横に振った。この先も沢山、二人でお互いを思って積み上げていきたい。確かめなくたってこの人とならそれができる。だから言葉にはしない。そう決めた。

「そう。じゃあ、寝よ」
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