ワンナイト限りの割り切り関係に「もう一度」は無粋です! ~正反対な私たちは今日も意見が合いません~
 居酒屋を出る頃には、夜の空気はすっかり深まっていた。
 駅のホームへと向かう足取りは少し頼りなく、アルコールの余韻が思考を緩やかに鈍らせている。日葵と別れ、滑り込んできた終電の座席に身を預けると、深い吐息が1つ漏れた。

 「……はぁ」

 無意識のうちに、指先がいつもの習慣をなぞる。スマートフォンの画面を点灯させ、鮮やかなアイコンが並ぶ中からマッチングアプリをタップした。
 
 通知欄には数件のチャットが届いている。
 適当に画面をスワイプしながら、私はふと思い出した。そういえば風間さん、「アプリをアンインストールしましょう」とか言っていたっけ。

「……まあ、あんなに仕事が忙しそうなら、いちいちチェックなんてしないよね」

 雑に自己完結させ、私はバレるまでは使い続けても問題ないだろうと自分に言い訳を作った。手慣れた手つきで、当たり障りのない返信を指先で弾いていく。
 日常を忘れさせてくれる、刹那的なやり取り。これが私の望んでいた世界のはず。

 けれど、返信の途中でふと指が止まった。
 スマートフォンの冷たい画面に映る自分の顔。それから脳裏をよぎったのは、あの日浴びたスイートルームの間接照明の光と、自分を慈しむように見つめていた風間さんの熱を帯びた瞳だった。

「……何やってんだろ、私」

 急に、誰とも知らない相手と文字を交わすことが砂を噛むように味気ないものに感じられた。どうしようもなく面倒になり、画面を叩くようにして電源を切る。

 暗くなった画面をバッグに放り込み、私は車窓の外へと視線を移した。
 ガタゴトと揺れる車体の振動を感じながら、流れていく夜の街の明かりを眺める。ネオンの光が線になって消えていくのを追いかけながら、私は心の中に居座る、割り切れない違和感を必死に無視し続けていた。
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