ワンナイト限りの割り切り関係に「もう一度」は無粋です! ~正反対な私たちは今日も意見が合いません~
 軋むベッドに、漏れる嬌声。身を反らして切れてしまった息を整えながら、私はぼんやりと天井を見上げた。

 あの煽りに飛びついてこなかった人はいなかった。
 そう、いな〈かった〉のだ 

 ベッドの上でも、リョウさんは徹底して紳士的なままだった。私が求めるのは、荒々しく現実を忘れさせてくれるような刹那的な刺激。愛憎渦巻く全てのドス黒い欲を、八つ当たりのようにぶつけてくれて構わないのに。対して彼は驚くほど丁寧に、慈しむように私に触れてきた。

「…痛くないですか?少しでも辛かったら、すぐに言ってくださいね」

 彼が耳元で囁く言葉は甘く、こちらの反応を1つ1つ確かめながら進めていく。自分の欲求を押し付けるのではなく、私の快楽を優先しようとするその姿勢。相当女性慣れしているのだろう。そうでなければ、初対面の相手に対してこれほど余裕を持って振る舞えるはずがない。
 本来ならば喜んで受け入れるはずのそれらを、私は静かに分析していた。馬鹿になりきれない。空っぽになりきれない。こんなに甘くて熟れる行為を私は望んでない。

 それでも、拒めないのは何故なのか。
 異を唱えられないのは何故なのか。

 私は彼の首に手を回しながら、冷めた心で考えた。けれど彼の指先が、唇が、私の肌を艶めかしくなぞる度に思考の糸は解けていく。泥沼に沈んでいくような、甘く重い感覚。彼に抱かれながら、じわりと汗をかくのを感じた。
 今の自分が『ハナ』なのか、はたまた本名の自分なのか。今までなら絶対に混ざることのなかった判別が、自分自身ですらつかなくなっていた。

「大丈夫ですか?」
 
 リョウさんは時折切なそうな、それでいて深い情愛を込めたような視線を向けてくる。その視線に、私は一瞬だけ恐怖を感じた。
 脳を過るのは同じ問い。この割り切り関係に彼は何を求めているのだろう、ということだけだった。未だに彼の素を見ることができていない気がした。彼の望みは何で、何をもって『割り切り関係で』という条件付きの(わたし)を選んだのだろう。

 けれど、その疑問もすぐに押し寄せる快楽の波にかき消された。今はただ、このどろどろに溶けた空気の中に身を浸していたくなった。
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