ワンナイト限りの割り切り関係に「もう一度」は無粋です! ~正反対な私たちは今日も意見が合いません~
 事が終わった後の静寂は、いつも気まずい。浮ついた思考がようやく鮮明になった私は、彼の腕の中からするりと抜け、ベッドから降りた。手早くバスローブを羽織り、乱れた髪を指で整えながら時間をスマホで確認する。

「12時10分…」

 良かった。まだ終電がある時間だ。今から準備をすれば、ギリギリ終電には乗れる。
 伸びをしてから振り返ると、リョウさんはベッドに横たわったまま眩しそうに私を見上げていた。自分の色っぽさを自覚しているのかいないのか。その真相は分からないが、照明も相まって目に毒である。さらに言えば、彼の瞳には先ほどまでの熱がまだ残っているように見えた。

「…ハナさん」
「なんですか?」

 私はわざと事務的なトーンで答えた。魔法の時間は終わったのだ、という合図のつもりだった。

「割り切り関係で、という条件から逸脱しているのは分かっています。ですが、」
「………」
「……また、会ってくれませんか」

 その言葉に、わずかに溜息が出そうになった。
 やっぱり、そう来たか。これほど容姿が整っていて、かつ紳士的な振る舞いができる男なら、次などいくらでも見つかるだろうに。けれど、私だってこれまでの経験から学んでいる。
 この場で冷酷に「二度と会いません」と突き放すのは、かえって面倒な事態を招くことが多い。だからこそ、

「…そうですね。落ち着いたら、また」

 私は曖昧に微笑み、視線を逸らした。いつもなら『自分は例外になれたのだ』と勘違いをし、上機嫌になってくれる人が多い。けれど、リョウさんは変わらない様子で食い下がってきた。

「来週はどうですか?もし良かったら、お食事にでも行きませんか?」

(あーやだやだ。これだから鋭い男は)

 心の中でため息を吐くも、それを表に出すことはしない。笑顔を浮かべたまま、形だけでも申し訳なさそうに眉を下げる。
 
「すみません。今、スケジュール帳を持っていないんです。お会いする予定を決めた時のように、アプリ上で決めませんか?」

 定番の言い訳を慣れたように繰り出す。申し訳ないが、帰りの電車でブロックしよう。バッサリと切ることにはなってしまうが、自衛のためにも許してほしい。
 彼は変わらずじっと私の顔を見つめている。そしてベッドから起き上がった勢いで私の手首を優しく、けれど逃げられない強さで掴んできた。

「そう言いながら、最初から次の機会を設ける気はないのでしょう?アプリで連絡を取ると言いつつも、ブロックしてしまえば終わりますもんね」

 その言葉に心臓が跳ねる。
 見透かされている。彼のようなタイプは、案外重いのかもしれない。誠実さという名の皮を被った独占欲や執着心の塊。

 私とは、まるで対極にいる人間だ。ここにきて素が見えるなんて望んでいない。

「……リョウさん。私たちは、そういう約束で会ったはずですよ。一夜限りの割り切り関係。お互い、それで了承していたじゃないですか」
「ええ。でも、あなたがあまりにも魅力的なので、一夜限りでは惜しいと思ってしまったんです」

 私は、努めて冷静に彼の手を振り払った。
 これ以上ここに留まるのは危険だ。この甘い空間に毒される前に、日常に戻らなければならない。それに、この男はなかなかに頭が回るらしい。そういう時は一刻も早く退散するに限る。

「シャワーを浴びてきます。それから、私は電車が残っている内に帰りますからね。宿泊はしない主義なので」

 彼の返事を待たず、私はバスルームへと逃げ込んだ。
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