苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

 彼は急に腕を組みして、真面目な顔をしてこちらを窺う。確かにそうだった。自分の発言が猛烈に恥ずかしくなる。

「い、いえ。ご馳走してもらうつもりなんてなくて……」

 すっかりお客様気分でいたことを反省した。スプーンを置き、慌てて課長の顔を見上げる。すると彼は目を細め、楽しそうな笑顔を浮かべた。

「あははは、冗談だよ。この前、美味いカレーをご馳走してもらったから、そのお返しだ。今夜はここで食べてもらいたいから連れて来たんだ」

 少しおどけた様子を見せた課長に、ホッとしたと同時に思わず頬が緩む。彼の冗談を見極めるのは、とても難しいことだけど。

 何だか嬉しい……。

 私を相手に、冗談めいた言葉を交わそうとしている。課長との心の境界線がいっそう低くなり、気軽な言葉の応酬ができているような気がした。

「……そうだ。最近、職場で何か気になることはあるか? 人間関係でも、仕事上でも、気付くことは何でもいい」

 その言葉で、勘違いしそうな自分を戒める。そうだった。彼はメンターの立場として私を支えてくれようとしている。だからこそ、こうして温かい目を向けてくれているのに。
 冷静さを取り戻そうと、尋ねられた質問を振り返る。

< 104 / 193 >

この作品をシェア

pagetop