苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
気になっていること……。仕事場で起きた出来事を思い返し、ふと、ある場面が頭を過った。
「――そう言えば、Aチームの天野さんが……」
一瞬、トイレから出てきた天野さんと後藤さんの姿が浮かんだ。様子がおかしかったことを伝えるべきか悩んだけれど、何か根拠があるわけではない。勝手な推察で、トラブルとしてしまうのもどうかと思った。
「いえ……。特に、問題はありません。ただ……課長の冗談は心臓に悪いです。真面目な顔をして、本音なのか、冗談なのか」
そう伝えると、課長は驚いた顔を浮かべた。そして気まずそうに髪をかき上げる。
「やはり俺は、こういうやり取りに向いてないな。人の感情を緩めたり、安心させたり。メンターには不向きなタイプなんだろうな」
珍しい課長の弱気な発言に、思わず否定したくなった。
「そんなことないです。最近はずっと助けてもらって、とても心強いです」
「そう受け止めてもらえて感謝するよ。それならもう一杯ご馳走しようか?」
課長ははにかんだような笑顔を浮かべた。きっと、建前で褒めていると思われたかも。
本当の気持ちだと伝えたいけど、これ以上言葉にすると、課長への想いを熱っぽく語ってしまいそう。その想いが何なのかは、自分でもよく分からないくせに。