苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

 どうしてこんな身勝手な発想ができるんだろう。上辺だけの彼の言葉に、心は一ミリも動かない。

 エレベーターホールの方から作業服を着た数人の男性が現れ、私たちをジロジロと見つめながら通り過ぎる。同じ会社の人間じゃなくてホッとした。こんな場所で目撃されたら、翌日何を言われるか。

 加瀬さんも周囲の様子が気になったのか、いきなり私の腕を掴んだ。

「説得するには、もう少し時間がいるな。店を予約してある。一緒に行こう」
「い、いえ。結構です……」

 すぐに拒否すると、加瀬さんは腕を掴んだまま、意味が分からないというような顔をした。

「怒っているのなら、謝るよ。でも、こんなにいい条件は他にないだろ。話を聞いてくれれば、すぐに――」
「もう、やめてください!」

 咄嗟に叫んだ声が静かなエントランスに響き、彼の表情が強張る。

「少し会わないうちに、ずいぶん反抗的になったな。昔はもっと従順だったじゃないか」

 違う。昔の私はただ、自分の気持ちが上手く伝えられなかっただけ。今の私が本当の私なのに。

「今は違います。あの時の私は……間違ってました。私は本当のことを伝えられずに、ずっと我慢してあなたと――」

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