苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
課長がそう答えると、その男性はさらに突っ込んできた。
「おいおい、ごまかすなよ。きちんと紹介しろって」
どうやら課長の連れ合いらしいその男性は、席を外して戻る途中だったらしい。するとその男性がこちらの席へ近付き、声をかけてきた。
「こんばんは。僕、井口といいます。今夜はこいつに失恋を愚痴ってたんですよ~。せっかくだから、一緒に飲みませんか?」
「わぁぁっ。喜んで!」
こちらが躊躇しているうちに、茜は反射的に歓迎の声を上げた。さっきまで不満たらたらの酔っ払い状態だったはずが、なぜかシャキッとはしゃぎ出している。ノリのいい茜に、男性は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
まったく……。
私の気まずい雰囲気など、まるで意に介さず、あまりの変わりように吹き出しそうになる。
こうやって誰かの誘いに気軽に乗れれば、自分も多少違う人生になるかもしれない。とは言え、それが簡単にできれば苦労はしない。
「私は水樹茜。で、こっちは芦原明奈。二人一緒に、よろしく~」
茜は急に仕切りだし、テンション高めに二人分の自己紹介をした。