苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
「藤生の知り合いなら、彼女の前に座れば。俺はこっちね」
そう言うと井口さんは茜の正面に移動し、課長は促され、仕方なく私の向かい側の席に座った。
うわぁぁ。気まずい……。
思わず手を伸ばし、テーブルに置いてあるメニュー表で顔を塞ぐように開いた。
普段から、課長の視線は苦手だ。ただ冷静に分析され、振る舞いを評価されているみたいに感じるからだ。
でもその一方で、不思議に思うこともあった。
私も課長も友人の愚痴に付き合うためにこの場所にいるわけで、いわば同じ立ち位置だ。課長が誰かのために自分の時間を犠牲にするなんて、どこか非合理的にも思える。
とにかく、この場は何とか切り抜けなくては。
なんせ茜の声はよく通るのだから、店の隅から隅へ響いたに違いない。
神様、どうかさっきの話が聞こえていませんように……。
そう願いつつ、この話題には触れないようにしようと心に誓った。
もう……帰りたい。
メニュー表を目立たせて持っていたせいか、急に茜が明るい声を上げた。
「わっ。そうだね明奈、気が利く~。せっかくだから、みんなでなんか頼もうよ~」
「いいね! 知り合った記念に、ここイチオシの生搾りレモンサワーで乾杯しよっか?」