苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

 翌週、金曜日の夕方に外の用事を済ませ、エレベーターに乗り込むと、誰かが乗り込んできた。それは芦原で、こちらを見るなり他人行儀な会釈をしてくる。

 お互い仕事の話をしながらも、彼女は俺のいる場所から少し離れて立っていた。どこか気まずい。二人きりのエレベーターの中、立つ位置はお互い不自然に離れた場所だ。

 このままだと、メンターどころじゃないよな……。

 彼女に対して平然を装うつもりが、かえってぎこちなくなっている。
 まさか、ここへきて逆戻りの関係性に戻るんだろうか。

「芦原……」
「課長……」

 二人の声が揃う。

「いや、何でもない。で、言いかけたことは?」
「えっと、先ほど広報の試食会でも新作の味は、概ね好評と連絡いただきました」

「あぁ、そうか……。感想は後でまとめておいて」
「はい」

 会話が途切れ、一瞬二人の間に沈黙が訪れる。他に何かないかと言葉を探るが、こういう時ほど見つからない。また食事にでも誘いたいが、毎回メンターという立場を利用しているようで、どこか卑怯に思えた。

「芦原、これから戻って残業か?」
「はい。コンセプトシートがまだ途中なので」

 腕につけた時計に視線を落とす。

「分かった。俺もまだ仕事がある」

 エレベーターが到着し、扉が開く。操作ボタンを押して彼女を見ると、なぜか頬を染め、視線を足元へ落としたままだ。

< 131 / 193 >

この作品をシェア

pagetop