苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
エントランスへ入り、自動ドアをくぐると、目の前に課長が立っていた。
「課長……」
待ち遠しい人が急に現れたことで心がほぐれ、肩に入っていた力が抜けていく。課長の顔を見て安堵したせいか、一瞬、仕事のことを忘れそうになった。
まさかここで待っていてくれてた? なんて都合のいい考えが頭に浮かんでしまう。課長は仕事中には見せないような、和らいだ表情を浮かべていた。
「お疲れ様。今日は一日大変だったな」
「それで、試作品の方はどうなりましたか?」
「説明して、どうにか納得してもらえた。ただ、今後のことは主任と話し合い、今回の件で改めて全体でミーティングを行うことになった」
話したいことはたくさんあったのに。課長の言葉と優しい眼差しに包まれ、何を言おうとしていたのかすっかり忘れてしまう。
「とにかく良かったです……」
「今夜は残業をしないで、早く上がった方がいい」
「はい」
二人でエレベーターへ向かう途中、頭がふわりと揺れて思わず立ち止まる。隣に立つ課長がそれに気付き、手を伸ばしかけた。けれど、さすがにオフィスビルの中で、その手は握れない。
「あ、あの、大丈夫です。何だか力が抜けて……」
「昼メシはしっかり食べたのか?」