苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
「そういえば……慌てて出かけて、それどころじゃなくて。すっかり忘れてました」
安心したせいか、今頃、空腹を感じてくる。
エレベーターに二人で乗り込む。扉が閉まると、私は軽く壁にもたれかかった。課長は心配そうに尋ねてくる。
「大丈夫か? 何か力がつくものを食べに連れて行こう。どこがいい?」
「あの、せっかくでしたら……」
課長は言いづらそうにしている私に、何を言うのかと身構えた。
「普段、課長が食事されてるところへ行ってみたいです」
「――俺の?」
眉根を寄せ、不思議そうな顔をして、私を見つめてくる。不意に狭い空間で視線が重なり合う。あまり距離を詰められると、こちらの考えを読み取られてしまいそう。慌てて視線を足元へ落とした。せっかくの機会なのだから、課長のことを少しでも知りたい。
「無理なら、いいんです。どこか近くの――」
「わかった……。期待するほどじゃないかもしれないが、それでいいなら」
「はい」
戻って仕事を片付けた後に、駅のホームで待ち合わせることになった。
また一歩、彼に近づけたような気がして、足取りが軽くなる。自分の席へ戻り、必要な
処理を済ませると駅へ向かった。