苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
プラットホームに降りていくと、ひときわ背の高い男性が立っている。それは課長の後ろ姿だった。
少し前までは、その姿さえもどこか苦手だったのに、今はいつまでも視線を向けていたくなる。頼りがいのある、大きながっしりとした背中。黒のチェスターコート姿がとても似合ってる。
その時、列車がホームへ滑り込んできた。私は思わず、彼の後ろ姿に向かって、「好きです」と声を上げた。
その途中、彼がこちらを振り向き、目を大きく開いてこちらを見つめている。風が私たちの間を吹き抜け、発した言葉はかき消され、周囲の音と共に滲んで消えてしまった。
課長が私の方へと歩み寄る。
「どうした? 何か、言っているように見えたが」
「いえ……何でもありません」
課長には気になる女性がいる。私は、まだ玉砕する覚悟ができていない。もう少しだけ気持ちを整理できたら、きっといつかこの言葉を伝えたいと思った。
二人で課長が暮らしている駅に下車する。駅を出て商店街をしばらく歩くと、裏通り沿
いに、植栽で覆われたレンガ造りの家が現れた。オレンジ色の明かりが暖かい印象を与
え、町はずれのレストランのように見える。