苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
「あの……ご自宅に戻られたんですね。もし、お時間があるのなら、これから家へ来てもらいたいと思って」
「芦原、あのな……」
「今夜だけは上司とか、部下とか、そういう関係は全部ナシで聞いてもらえますか? 困らせるようなことは言いません。ただ、課長にここへ来てもらいたいだけなんです」
課長はしばらく沈黙を続け、決意したように声を上げた。
「わかった、すぐに行く。何が起きたのかと焦って、俺は……今、芦原のマンションの前にいる」
まさか、すぐ傍まで来てくれていたなんて……。
とたんに、胸の奥で生じた熱が全身を巡り出す。心音が激しく響き、息苦しくなる。
心が乱れ、どんな顔をして出迎えたらいいのか分からなくなった。
すぐにインターホンが鳴り、モニターに課長の姿が映る。
「はい。すぐに開けます!」
そうは言ったものの、オフィス用の服装にエプロン姿だったことを思い出す。慌ててエプロンを外し、鏡でメイクを確認してから玄関へ急いでドアを開けた。
目の前には、表情を硬くした課長が立っている。
「連絡を見て、すぐに駆け付けてくれたんですね……」
「心配だったから……。何も問題がないなら良かった」
「まずは上がってください」