苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
「大丈夫か?」
「いえ……あの、はい」
勝手に混乱し、何の返事をしているのか分からなくなる。
課長はいつものように冷静な態度のまま、表情を硬くして、心の内は読み取れない。
一方、友人二人はこちらのことに我関せず、盛り上がりを見せていた。
「きゃはは。井口さんってホント、面白い人ですねぇ~」
「そう? 君の方が面白いよ。それよりこの後、もっと楽しい居酒屋紹介するけど、一緒に行かない?」
「えぇ~、行きた~い!」
話は順調に進み、友人二人は別の居酒屋へ向かうことでまとまったらしい。茜は気を使ってくれたのか、こちらへ尋ねてきた。
「それで、明奈はどうする?」
「あ、私は……」
このまま一緒について行くのはどう考えても野暮であろう。それに、この場を去るにはいいきっかけができた。
「楽しそうだけど、今日は疲れちゃって。悪いけど、先に帰るね」
バッグを片手で持つと、席を立った。
「井口、俺も帰るよ。支払いは済ませておくから」
すると、ぶっきらぼうに課長が呟き、オーダー伝票を手にする。そして、まるでこちらへ合わせるかのように彼も席を立った。
「そっか。友人さんも、明奈も残念~。それじゃ、またね~」