苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
茜は、さっきまで私といた時とは別人のような笑顔を浮かべると、無邪気にこちらへ手を振った。
友人二人に見送られ、課長と出口へ向かう。
その途中、大きな背中に『どうして同じタイミングで立つんですか?』と、問いかけたくなる。
せっかく一人になれてホッとできるはずが、この状況では諦めるしかない。
先にレジを済ませた課長は、こちらの支払いを制止するように手の平を向けた。
「ここはいい。今夜はおごりだ」
「で、でも……」
課長からの冷たい眼差しを感じ、慌てて頭を下げた。
「ありがとうございます」
言葉を伝えたものの、そっと視線を上げると、なぜか課長は戸惑うように目を逸らした。
「それより、友人とゆっくり飲んでいる最中、邪魔して悪かったな」
「いえ。そんなことは……」
急に謝られ、言葉に詰まる。やはり先ほどの会話は聞こえていたのだろうか。焦った拍子に全身の温度が上がり、指先まで熱くなる。
「駅までは行くんだろ?」
「はい」
「それなら帰るか」
課長は目元にかかる髪を片手で掬い上げると、駅へ向かって歩き出す。私は、慌てて彼の後を追った。
これ以上口を開くと、ろくなことにならないような気がして、ひとまず黙って歩くことにした。