苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
「な、何を言ってるんだ……」
部長は動揺したのか、声を詰まらせ、先ほどまでの迫力が急に弱まる。天野さんは色褪せたクリーム色の一冊のノートを取り出し、部長の前に掲げた。
「これは、私が今までに考えてまとめたアイデアノートです。後藤さんが私のノートから奪ったんじゃないですか。今後は部長の作るチームに入り、このアイデアを実現できる環境が用意されると……。でも、断わるなら辞めてもらうしかないと告げられ。自ら断る決断ができなかった私が愚かでした。結局、後藤さんは社内プレゼンで最優秀賞が取れなかった。それを、私のせいだと責められて……」
私はすぐに、あのトイレから出てくる二人の様子を思い出した。つまり、後藤さんが社内プレゼンで発表したのは、天野さんのアイデアだったということだ。
部長は険しい顔つきで押し黙ったまま、胸元で握っている拳がわずかに震えていた。
「ここにいる皆さんにも聞いてもらいたいです。後藤さんがメンタルの不調を訴えているのは、全部ウソです。彼女は休職期間をまるで休暇のように過ごし、海外へ出掛けたり、ブランド品の買い物をしたり、好きなように遊んでいました。だから、娘さんにも一緒に謝ってほしい。私は、全部許せません!」