苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
天野さんの言葉に、周囲は顔を見つめ合い、ざわついた。「娘さん」という言葉に、理解が追いつかない。
すると、隣にいた課長が天野さんに歩み寄る。
「もうそれくらいでいいだろう。これ以上、君が傷つく必要はない」
そして部長へ向き合うと、言葉を投げかけた。
「後藤さんは、部長の前妻の娘さんですね。部長は強引に後藤さんを企画課に入れ、内部から人間関係を崩壊させようと考えた。社内プレゼンの件も、開発課に無理な修正依頼をして混乱させたことも。詳しいことは、SNSの裏アカウントで後藤さん自身が発信しています。証拠はすべて押さえさせてもらった。結局、彼女は承認欲求が強すぎて、秘密にすることができなかったようですね」
部長は口元を歪めて悔しそうな顔をすると、手前に置いてあった書類を乱暴に落とし、すぐに部屋を出て行った。
天野さんはしばらく俯き、いたたまれなくなって部屋の外へと飛び出す。
私はすぐに彼女の背中を追いかけた。廊下に出ると、内階段の方へ向かおうとしている姿が目に入る。急いで駆け寄り、声をかけた。
「待ってください! 天野さん……」
すると、階段の手前でビクリとして、彼女は背中を向けたまま立ち止まる。