苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

「どうか辞めないでください。私は入社したばかりで、経験はまだ浅くて、教えてもらいたいことが山ほどあります。きっと、そのノートにはたくさんのヒントが詰まっているはずなので。だから、これからも一緒に仕事をして、そのアイデアを活かしてもらいたいんです」

 俯いたままの天野さんは肩を震わせ、手に持っていたノートを胸元に抱きしめた。

「これ……今までの経験や、積み重ねた記憶がたくさん詰まってて。だから、そんな簡単に捨てられなくて」

「そうですよね……。私もアイデアを思い付いたら、できるだけメモしてます。でも、まだまだ詰めが甘いと言われて。結局、HINOコフレのことを好きな人が、ここで残ってやってるんだと思います。チームは違いますけど、目指しているところは同じだと思うので」

「芦原さん……」
「だから……これから、もっと頼りにしたいです。それでも、いいでしょうか?」

 天野さんは頬に流れる涙を拭いながら、どこかすっきりとした顔をして私を見上げた。

「そんな。私だって……まだ半人前だよ」

 彼女はそう言うと、私と顔を見合わせ笑顔を浮かべる。ようやくホッとできて、何だかこちらまで泣いてしまいそうになる。

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