苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

 メガネの奥に穏やかな笑みを浮かべ、木漏れ日のような柔らかな眼差しが、こちらを見つめている。

「違う。一緒に過ごしたことで、仕事の疲れを充分癒してもらった。でも俺はまだ、芦原のことをほんの一部知っただけだ。だから、これからきちんと口説かせてもらうよ」

 低い声で囁かれ、足元が崩れて、そのままバターのように溶けそうになった。
 すると課長は私の手をすぐに離し、髪をかき上げると姿勢を正す。

「――それから、まだ未提出のファイルは今日中に締め切りだ。しっかりと仕上げてもらわないと困るぞ」

 彼は普段通りの顔をすると、そのまま背中を向けて部屋を出て行く。
 私はすっかり動揺してしまい、すぐに回復できそうもない。今日は、このまま仕事ができるだろうか。
 
 いったい、どんな顔をして席に戻ればいいんだか……。

 両手で頬を押さえる。熱っぽくなり、気怠くなった体を冷まそうと、窓際へ近付き外を眺めた。




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